6月26日付の「産経新聞」が「パイワン族 質問状提出へ」という見出しで、「『事実を捏造している』として集団提訴された『NHKスペシャル“アジアの一等国”』について、番組内で『人間動物園の見せ物になった』と紹介された台湾の先住民族の人々が、『放送で辱めを受けた』として、放送の意図や経緯についての公開質問状を近くNHKに提出することが25日、分かった」という記事を掲載した。
このパイワン族によるNHKに対する「公開質問状」は6月21日付となっていて、NHKが取材した屏東県牡丹郷高土村(クスクス村)の郷長などをつとめ、現在は台湾政府で原住民教育に携わるパイワン族の長老、華阿財(バジェルク・タリグ)氏によって書かれ、番組に出演した許進貴氏と高許月妹さん兄妹、そしてNHKの濱崎憲一ディレクターらに通訳した陳清福氏の4名の連名で出されている。ここに、その全文を下記ご紹介したい。
公開質問状の内容は深刻である。番組は「高士村の人間として、非常に辱めを受けた」としたため、誇り高いパイワン族の名誉を深く傷つける内容だったとして、「日英博覧会」の主旨、目的およびその内容を問うとともに、「高士村の人々が共有する博覧会の美しい記憶として後世に語り継がれてきたものを、なぜ突然『人間動物園』という見方に変えてしまったのか」と問い質している。
実は、取材した濱崎憲一ディレクターは、取材中に一言も「人間動物園」という内容で放送することを説明せず、彼ら兄妹の父、すなわち日英博覧会に行った父チャバイバイ・プリャルヤン氏の当時の写真を見せただけだったという。
そこで、娘さんの高許月妹さんが「悲しいね」と日本語で言った場面が放送では流された。だが、日本文化チャンネル桜の検証取材で明らかになったように、パイワン族の方々の話す日本語の「悲しい」には「なつかしい」「心が痛む」「せつない」など複数の意味が込められており、通訳した陳清福氏は、その場で濱崎ディレクターに「悲しい」の意味を説明したという。
だから、その後、高許月妹さんがパイワン語で語った内容が字幕で「悲しいね。この出来事の重さ語りきれない」と流されたが、その意味は「すごくなつかしい」という意味だった。
「訴状」でもその点を「要するに亡くなってもういない父親の写真を見て、懐かしいせつないと感嘆の声を上げただけなのである」と明らかにしている。
ところが、番組では「当時、イギリスやフランスは、博覧会で植民地の人々を盛んに見せ物にしていました。人を展示する、人間動物園と呼ばれました。日本はそれを真似たのです」というナレーションとともに、どこかの博覧会で見せ物とされたイギリス植民地化にあったインドの子供たちを「人間動物園」と表示しつつ、「展示された青年の息子、許進貴(85)さん。そして娘の高許月(79)さんです」と紹介、そして父の写真を見た高許月妹さんが「悲しいね、」と日本語で言い、続けて高許月妹さんがパイワン語で話す言葉を字幕スパーで「(字幕)悲しいね。この出来事の重さ語りきれない」と出している。
つまり、視聴者はこの兄妹の父が日英博覧会で見せ物として展示されたこと知った娘の高許月妹さんが「悲しいね」と言った、と受け止めるしかないような内容に仕立てていたのである。
また、番組では「チャバイバイさんは生前、博覧会のことについて子供達に語ることはありませんでした」と説明しているが、彼ら兄妹は兄弟姉妹の中でも末子だそうで、小さいころに父は亡くなっているそうだ。だから、父親から聞かされなかっただけなのである。
番組は、父のチャバイバイさんがいつ亡くなったとも、亡くなったときにこの兄妹が何歳だったのかも明示せず「博覧会のことについて子供達に語ることはありませんでした」とだけ説明する。そうすれば、父が子供たちに話さなかったのは、人間動物園として展示されたことが不名誉なことだと思っていたからではないか、日本人に虐げられたと思っていたからではないかというような受け取り方を視聴者がしてくれることを期してのことと考えられる。
ところが、クスクス村の人々にとって、日英博覧会への出演は「美しい記憶として後世に語り継がれてきた」ものだった。この番組によって「非常に辱めを受けた」とつづるパイワン族の方々の怒りと悲しみは深い。
なお、番組では娘さんの名前を「高許月」と表示していたが、この公開質問状でも明示しているように「高許月妹」だ。これは明らかな間違いである。NHKはこの名前の間違いくらいは早急に訂正し、高許月妹さんにも謝罪すべきであろう。
わたくしは華阿財と申します。1938年、屏東県牡丹郷高土村(クスクス村 kuskus)に生を享けました。この地は、古くは高土佛社と呼ばれておりました。
私はパイワン族(排湾族 Paiwan)であり、パイワン族としての本名は「バジェルク・タリグ」(巴基洛克 達玄固 Valjeluk M,V,L)です。また、日本時代の戸籍には、日本名の「松田勇」で登録してあります。
私はかつて国民学校で教鞭をとり、後に公職に転じて牡丹郷郷長、屏東県議会議員を歴任、現在は行政院教育部原住民教育政策委員および旮伏龍安(カブルンガン kavulungan)文史研究室の責任者を務めております。
先週、NHKの番組「JAPANデビュー」において、台湾での取材から『パイワン族の人々を人間動物園としてイギリスの日英博覧会で見世物にしたのです』という不適切な表現を放送したと知り、非常に驚いています。高士村の人間として、非常に辱めを受けたと感じております。
・1910年開催の「日英博覧会」の主旨、目的およびその内容は如何なるものであったのか。また、そこで何が行われたのか。
・高士村の人々が共有する博覧会の美しい記憶として後世に語り継がれてきたものを、なぜ突然「人間動物園」という見方に変えてしまったのか。大変理解に苦しみます。
我々村民一同は、上述の真相を明白にすることを強く求めるとともに、日本の関連当局が速やかにNHKを招請して再調査し、事実を明らかにし、報道することを希望します。
現代において、人類は民主自由を渇望し、平等を求め、偏見をなくし、種族を分かたず、お互いに尊重し、信頼と愛を建立し、平和のために努力することを是とします。
特に上記をしたため、お送りする次第です。
台湾屏東県牡丹郷高土村 書信人 華阿財
連署人 許進貴
連署人 高許月妹
連署人 陳清福
西暦2009年6月21日