12月14日、東京地裁においてNHK「JAPANデビュー」裁判の判決が下され、小野洋一裁判長はNHK側の主張を全面的に受け入れ、本会の小田村四郎会長やパイワン族出演者など原告側の主張を否定、損害賠償請求を棄却した。

午後2時すぎ、東京地裁の103号法定で小野裁判長が「主文1、原告らの請求をいずれも棄却する。2、訴訟費用は原告らの負担とする」と述べると、100名ほどが詰めかけた満席の傍聴席には重い空気が漂った。

小野裁判長は「事実及び理由の詳細は判決の記載の通りですが、当裁判所が主要な争点と考えた部分、理由の要旨をこれから読み上げます」と続け、番組で高許月妹さんが「かなしい」と述べたことなどを巡る争点についての要旨を読み上げた。

「かなしい」との発言については、高許月妹さんが主張する通り懐かしいの意味だったとしても、島田雄介・NHKディレクターが悲哀の意味で受け取ったのには相当の理由があるとし、重ねて「番組編集は放送事業者の自律的判断に委ねられている」と述べた。

また、NHKが高許月妹さんたちの取材後に知った「人間動物園」という言葉を、高許月妹さんが登場する場面で使ったことについていても「被告の自立的判断による」とし、NHKに恣意的編集は認められないとした。

さらに、高許月妹さんの氏名を「高許月」と誤って表示した点についても、「故意があったとは認められない」「対応が悪質であるとも認められない」と述べた。

日英博覧会で高許月妹さんの父親が「人間動物園」として「見せ物」にされたことについても、「過去の歴史的事実について紹介しているにすぎない」「父親を動物扱いとしているとは認められない」と述べた。

一方、「話しきれないそうだ。かなしいね、この話の重さね、話しきれないそうだ。言い切れない」との発言は、高許月妹さんの兄、許進貴さんの発言だと視聴者の多くに受け取られたものの、後日、これは通訳した陳清福さんの発言だったことが明らかとなるが、小野裁判長は「原告陳清福の日本語の音声を、視聴者は原告高許月妹のパイワン語発言の通訳であると容易に認識できる」とした。

陳清福さんを番組で紹介しなかったことについては「陳清福の人格権を無視する行為であるとまでは評価はできない」と述べ、陳清福さんの通訳料の問題も「原告陳清福は、自主的に無償で島田らの取材に協力したと認めるのが相当である」と述べ、原告側の主張をことごとく否定した。

小野裁判長が約4分にわたって理由の要旨を述べ終わると、傍聴席から「不当判決!」「おかしいぞ」「台湾人を侮辱するな」「でたらめにもほどがあるぞ」などの怒号が次々と飛び交い、法定内は騒然となった。

編集子も、小野裁判長が主文を言渡した時点で愕然としたが、理由の要旨を聞いているうちに、ハラワタが煮えくり返るような思いが募ってきた。傍聴に駆けつけた人々も同じ思いだったようだ。それが怒号となって爆発した。

東京地裁は判決で「番組編集は放送事業者の自律的判断に委ねられている」からとの理由でNHKは恣意的編集をしていないとの判断を示した。しかし、それなら裁判で争う意味はさらさらない。どんな番組を放送しようが「編集は自律的判断に委ねられている」とするなら、最初から「答えありき」の裁判だったと言うしかないではないか。

閉廷後、高池勝彦・弁護団長らは駆けつけた人々に判決内容をかいつまんで説明するとともに「控訴する」と表明した。