台湾出身者を中国籍にした根拠はやはり昭和39年の法務省民事局長通達だった!
大江康弘・参議院議員(無所属)が8月9日に提出した「戸籍における台湾出身者の国籍表記に関する質問主意書」に対して、予定どおり19日に菅直人総理から「答弁書」が返ってきた。24日、その「答弁書」(PDF版)が参議院のホームページに掲載された。
大江議員の質問は以下の3点だった。
一 戸籍において、台湾出身者の国籍や出生地を「中国」や「中国台湾省」と表記するのは、昭和三十九年六月十九日付で出された法務省民事局長による「中華民国の国籍の表示を「中国」と記載することについて」という通達が根拠になっていると思われるが、それで相違ないか。もし違うというのであれば、根拠となっている法律や通達などを明らかにされたい。
二 戸籍において、台湾出身者の国籍を「中国」と表記することは、現状に即し正確だと認識しているか、政府の認識を明らかにされたい。
三 在留カード化措置において、これまでの外国人登録証明証書では「国籍」欄であったのを「国籍・地域」欄と改め、台湾出身者の「国籍・地域」表記は「中国」から「台湾」に改められることになる。この事例に鑑み、戸籍における台湾出身者の国籍表記に関しては今後どのように対応するのか、政府の方針を示されたい。
これに対して、政府の「答弁書」では以下のように答えている。
まず、1番目の根拠については質問主意書の指摘を認めた。やはり、台湾出身者の戸籍の国籍を「中国」としていたのは、法務省民事局長が昭和39年6月に通達した「中華民国の国籍の表示を『中国』と記載することについて」だった。
次に、2番目の質問に対しては、台湾出身者の国籍を「中国」にしていることは「我が国が国家として承認しているところの『中国』を指すものであり、このような取り扱いに問題があるとは考えていない」との答弁だ。
結論から言えば、台湾出身者を「中国」籍としていても間違っていないということだが、台湾は日本が「国家承認」するところの「中国」で間違いないという答弁だ。しかし、この答弁内容を理解できる人はどれくらいいるのだろう。
外務省によれば、日本は明治時代の初期に「中国」を「国家承認」し、昭和47年(1972年)の「日中共同声明」で中華人民共和国を「中国の唯一の合法政府」として「政府承認」しているという。台湾の中華民国は政府承認されなかった。
しかし、では日本が国家承認するところの「中国」とはどこかと聞くと「それは答えられない」と言い、「中華人民共和国と台湾の両方を指すのか」と重ねて聞くと、「日本は台湾の領土的な位置づけに関しては独自の認定を行う立場にないので答えられない」との返答だ。
なんとも摩訶不思議な答えだ。しかし、それでいながら「答弁書」では国家承認しているのは「中国」だから問題ない、という。
民事局長通達には、日本は「中国」を国家承認しているから云々などという理屈は一切入っていない。単に「中華民国は事実上台湾と中国本土とに分離している実情からして…中国本土及び台湾を区別することなくすべて『中国』と記載するのが適当と考えられます」とあるのみだ。
実は外登証問題のときも、管掌する法務省入国管理局は「問題ない」と言い張ってきた。要するに「問題ない」という結論に導く理屈はどうにでも付くということのようだ。
3番目の質問に対しては、次のように答えている。
≪お尋ねの点については、台湾に関する我が国の立場等を踏まえ慎重に検討する必要があるものと考える。≫
なんとも玉虫色的な答弁だ。「台湾に関する我が国の立場等」の意味するところは必ずしも明らかではないものの、在留カード化措置も視野に入れたいが、国交のない台湾に関する我が国の立場は複雑なので、情勢を勘案しながら「慎重に検討」したいということのようだ。
いずれにしても、50年も前の民事局長通達が根拠、つまり元凶だということが明確になった。要は、この局長通達を出し直させることだ。これが出口のようだ。このような方向性を導いていただいた大江先生にはこの場を借りて御礼申し上げたい。
答弁書の原文はこちら