2月1日付・朝日新聞社説に『中国と台湾-春節便は飛んだけれど』が掲載されました。

社説は、「(反国家分裂法の)詳しい内容はまだはっきりしないが、台湾は強く反発している。この法律は台湾が中国の一部であることを前提としているからだ。 このままでは、中国が対話の再開をめざしても、台湾は中国の法律に身構え、対話に応じにくい。中国は法律の真意をもっと明確にし、台湾も対話に応じる可能性を探ってもらいたい」と結んでいる。

台湾侵略の武力行使の容認まで規定した法律に、なぜ台湾が対話に応じなければならないのか理解に苦しむ主張である。


■中国と台湾――春節便は飛んだけれど

朝日新聞 平成17年2月1日付社説

9日の春節(旧正月)を前に、中国で働く台湾のビジネスマンや家族らの帰省が始まった。今年は台湾だけでなく中国の航空会社が臨時便を飛ばしている。春節だけの特例とはいえ、中国の旅客機が直接台湾に乗り入れたのは初めてのことだ。

台湾との統一をめざす中国は交流を進めるため、直接の通商、通信、通航を呼びかけてきた。ほかの二つは事実上実現したが、通航は取り残された。台湾が安全保障などを理由にして拒んできた。

だが、大陸で働く台湾人が増えたため、一昨年の春節期間に、まず台湾が臨時便を飛ばした。昨年は台湾総統選をめぐる中台の対立で見送られたが、今年は中台双方から飛び立つことになった。

台湾では陳水扁総統が3年後の新憲法の制定を掲げ、中国では台湾の独立を警戒して武力統一論が頭をもたげている。中国は95~96年に台湾近海でミサイル演習をした。それに続く新たな台湾海峡の危機を想定して、双方の軍隊が戦略を練る。米軍も警戒を強めている。そんな折だけに、今回の春節便は一時的にせよ、台湾海峡の緊張をほぐすものだ。

とはいえ、ただちに定期便を実現するのはむずかしい。台湾は本音のところでは、経済で中国に頼りすぎると、政治的にも自立できなくなると心配しているからだ。当面は臨時便を徐々に増やすことのほか、貨物の直行便を開くことが新たな焦点となりそうだ。

問題は、99年の李登輝前総統の「二国論」発言をきっかけに途絶えたままの政治対話を、この機会を利用して復活できるかどうかにある。できなければ、春節が過ぎれば再び相互不信だけが残る。

今回の春節第1便が飛び立つ前夜、中国の賈慶林・全国政治協商会議主席が台湾に向けて演説した。江沢民前国家主席が統一を強く呼びかけた演説から10周年を記念したものだ。賈氏は「平和的統一と一国二制度の基本方針を堅持する」と述べるにとどめ、武力統一や統一の期限には触れなかった。台湾への圧力を控え気味にして、対話に引っ張り出そうとの意図が読みとれた。

年明けに死去した台湾経済界の実力者・辜振甫氏の弔問に、中国は台湾との対話窓口である海峡両岸関係協会の幹部2人を派遣することを決めた。双方の窓口の幹部の接触が期待できる。

一方では、新たな不安が台湾を覆っている。中国は3月の全国人民代表大会で反国家分裂法を成立させる見通しだ。法律の詳しい内容はまだはっきりしないが、台湾は強く反発している。この法律は台湾が中国の一部であることを前提としているからだ。

このままでは、中国が対話の再開をめざしても、台湾は中国の法律に身構え、対話に応じにくい。中国は法律の真意をもっと明確にし、台湾も対話に応じる可能性を探ってもらいたい。

新年を飾るせっかくの春節便である。対話の追い風にする工夫をしてほしい。