技術混在 安全面に不安

日本の新幹線技術が初めて輸出された台湾新幹線が営業運転を始めた。車両は東海道・山陽新幹線の700系がベース。世界最速の時速300キロで、在来線で約4時間かかる台湾の二大都市、台北―高雄間(345キロ)を90分で結ぶ。大幅な時間短縮は1964年に東海道新幹線が開業したときの日本とだぶる。一方、最新の地震検知警報システムが導入されておらず、信号や分岐器(ポイント)などで日本側と欧州の鉄道規格・技術が混在し、安全面での不安も指摘されている。(秦重信)

日本製 ハードの7割

■開業遅れの理由
営業運転を開始した台湾新幹線 台湾新幹線を運営する民間会社「台湾高速鉄路」は、98年に建設工事や事業運営などの契約を台湾当局と結んだ。車両などもドイツ方式が有力だったが、この年ドイツの高速鉄道で脱線事故があり、約100人が死亡。翌年9月には2400人を超える死者が出た台湾大地震が発生した。

開業以来、大事故がなく、地震対策に優れている日本の新幹線が土壇場で逆転採用され、川崎重工などの車両メーカーや商社で作る「日本連合」が車両と電気システムを受注した。

ただ、こうした複雑な契約関係が日本側と欧州側のあつれきを生み、当初2005年10月だった開業予定が大幅に遅れた。

■旧型の地震検知装置

東海道新幹線では、上下方向に揺れる地震の初期微動(P波)で運行への影響を判断。停止が必要な場合は警報を発信し、変電所から列車への送電をストップさせ、水平方向の主要動(S波)が届くまでに速度を低下させる。

P波の速度がS波のほぼ2倍という〈時間差〉を利用したこのシステムは92年に「ユレダス」、05年8月には、警報を発信するまでの時間を短縮した「テラス」として導入された。日本側はこのシステムを取り入れるよう台湾側に提案したが、採用されなかった。

結局、各信号機器室に感震器を設置し、揺れの大きさが40ガル以上になった場合、運転を停止させるというシステムが採用された。日本でも感震器は使われているが、早期検知・警報という点ではテラスに劣る。

日本の関係者は「事業運営の中心にいる欧州側が大地震を経験していないからかもしれない。地震対策で日本が選ばれたという感じはしない」と困惑する。

■ATC

自動列車制御装置(ATC)は、列車が自らの位置を把握できる最新のデジタル式が使用され、日本にはない双方向運転が可能だ。例えば、上り線のある区間で事故があった場合、いったん平行する下り線を逆走して運転を継続できる。

しかし、台湾新幹線ではフル営業になった場合、1日88往復し、双方向運転は事実上、不可能だ。日本側関係者も「台湾以上に列車密度が高い日本の新幹線ではあり得ない」という。

軌道も複雑だ。駅構内はポイントを含めドイツ製で、駅と駅の間の一部区間(台北―板橋)もドイツ、オーストラリア企業が請け負い、同じ規格のはずの線路幅(1435ミリ)が、微妙に違うトラブルがあった。レール頭部の形状が異なっていたためで、削って日本に合わせたという。

関係者によると、台湾新幹線は「ハードの割合は日本製が7割程度、ソフトではさらに下がる」という。

日本の新幹線は、車両とそれ以外のシステムが、すべて一体となっているため、高い安全性が確保されている。〈台湾版〉は当面、不安はぬぐえない。

【台湾新幹線】1月5日、1日19往復でスタートした。台北駅は開業しておらず、営業区間は板橋駅―左営駅(高雄市)間。車両は700T型。12両編成で、乗車定員は989人。路線は高架橋・橋りょう区間が約7割、トンネル区間約2割、盛り土などの区間が約1割となっている。