こういうこともあるのか。一冊の本が単行本として出版され、人気が続けば文庫本として読み継がれる。普通はここまでだ。ところが、蔡焜燦(さい・こんさん)氏の『台湾人と日本精神』の場合は、単行本から文庫本となり、それがまた新装版として単行本となった。
非常に珍しい、奇跡的なケースだ。本書が不朽の名作といわれる所以だろう。
本書は、平成12年(2000年)7月に日本教文社からで単行本化された。売れ行きが好調だったにもかかわらず、小林よしのり著『台湾論』を巡る騒動の余波を受け、本書の「現在語られているような慰安婦の強制連行は無かった」「小林よしのりの『台湾論』に対する台湾での批判は、主要マスコミを牛耳る外省人の情報操作」などの親日的記述を問題視した版元が販売を中止した。しかし、翌年8月、小学館から文庫本として出版された。
以来14年、台湾の日本統治時代や日台交流を知るための最適のテキストとして読み継がれてきた。蔡焜燦氏は新装版で改めて次のように述べている。
<戦後70年、すなわち台湾が日本でなくなってから70年の歳月が流れたが、私は米寿を迎えた今でも台湾を訪れる日本人にこう訴えている。「日本という国は、現代に生きる日本人だけのものではない。我々のような“元日本人”のものでもあるのだ。先人たちが実践した、日本精神を取り戻してほしい」>
下記に、蔡焜燦氏のプロフィールを紹介するとともに、小学館ホームページに掲示されている案内をご紹介したい。
ちなみに、本会が毎年の春秋に開催している日本李登輝学校台湾研修団(略称:李登輝学校研修団)でも蔡焜燦氏にはほぼ毎回、講師を務めていただいている。5月15日から始まる第23回李登輝学校研修団では、19日の最終日、沼田幹夫・交流協会台北事務所代表(駐台湾大使)とともにご講義いただくことになっている。
・著 者:蔡焜燦
・書 名:『新装版 台湾人と日本精神─日本人よ胸を張りなさい』
・体 裁:四六判、272頁
・定 価:1,600円+税
・版 元:小学館
・発 売:平成27年4月23日
蔡焜燦(さい・こんさん)
昭和2年(1927年)1月9日、台湾・台中州清水街(現台中市清水区)生まれ。清水公学校を経て台中州立彰化商業学校卒業。1945年、岐阜陸軍整備学校奈良教育隊入校。終戦後、台湾で体育教師となるが、後に実業界に転身。半導体デザイン会社「偉詮電子股分有限公司」会長などを務める。『台湾紀行』を著した司馬遼太郎が蔡氏の教養の深さに驚き、同書で「老台北」と呼んだことでも知られる。短歌を愛好する「台湾歌壇」の代表として日本文化を広く紹介してきた功績が評価され、2014年春の叙勲で旭日双光章を受章。李登輝民主協会名誉理事長。実弟は、白色テロ時代に無実の罪で10年間緑島に投獄された蔡焜霖氏。
愛日家・蔡焜燦の名作、待望の単行本化!
2001年に小学館より文庫版として刊行された本書は、著者の日本への愛情ある叱咤激励が読者の共感を集め、現在まで14版を重ねた超ロングセラー作品です。
日本の統治下で「日本人」として青年時代を過ごした著者は、終戦後に中華民国の支配下に置かれた台湾で“中国人”として長い時を過ごしてきました。その「2つの時代を生きた台湾人」として、日本統治下での精神的教育を評価し、中国の腐敗を批判する論旨は、現在の日中関係を考えるうえで貴重な提言となっています。そのうえで現在の日本人に、「日本精神(=勤勉で正直、誠実、公を大切にする考え方を台湾ではこう呼ぶ)」の大切さを訴える蔡氏のメッセージは、戦後70年を迎える日本人に強く響きます。
本作品は読者から「単行本として手元に置きたい」という希望が寄せられてきました。
そこで新装版では、文庫版発刊から14年が過ぎた現在の日中関係に関する記述を大幅に加筆して発刊します。すでに本作品を知る読者にも、そして新たに手に取る読者にも、「戦後70年を考える必読書」として読み応えのある作品となっています。