2015121612月10日発売の月刊「Voice」1月号で、ノンフィクション作家の門田隆将氏と国家基本問題研究所理事長でジャーナリストの櫻井よしこ氏が「エルトゥールル号の教訓」と題して対談している。

これは、門田氏の新著『日本、遥かなり─エルトゥールルの「奇跡」と邦人救出の「迷走」』(PHP研究所、2015年11月)を題材に、思想信条が近い二人の識者による「国家が『命』を守るとはいかなることか」をテーマとした真に読み応えのある対談だ。

海外にいる邦人を救い出す法整備が後手にまわり、2015年の安全保障関連法改正でもなお自国民の命を「救えない」状況が続いている現状について、門田氏は「自国民を救出するという行為が、『究極の自衛』であるという『基本』すらわかっていない人々が、いかに日本に多いか」と指摘、櫻井氏もまた「安全保障関連法案を『戦争法案』と称する共産党や市民運動の存在」を指摘しつつ「与党内にあって自民党の足を引っ張る公明党の存在」を「さらに罪深い」と指摘する。

では、この日本の現状はどこに問題があるのか。門田氏は「現実を直視しているかどうか」だと指摘し、櫻井氏はそれを「日本を取り巻く現実は、いまや中国の脅威を抜きにして判断できません」と具体的に述べる。

門田氏も櫻井氏も台湾問題には人一倍、造詣が深い。門田氏の「現状、戦時において中国や韓国、台湾に救出機を出すのはそうとう困難」という指摘から、対談はおのずと台湾へ向かう。

櫻井氏が「日本の国益にも叶うやり方で、台湾という友邦国を守ることを考えて行かなければなりません」と述べるや、門田氏が「台湾は日本の生命線ですからね。……台湾海峡が中国の支配下に置かれるような事態になれば……それこそわが国の『存立危機事態』に直結します」と応じ、二人の見解は寸分と変わらない。

そこで門田氏が「では、日本は台湾に対して何ができるのか」と切り出すと、櫻井氏は待ってましたとばかり、すかさずアメリカが定めた台湾関係法を取り上げ「わが国が取りうる対処はおのずと明らかです。すなわち日本版の台湾関係法を制定することです」と述べ、日本がいま取りうる措置は日本版・台湾関係法しかないことを強調する。

門田氏もまた日中共同声明の当時を振り返り「アメリカは台湾関係法を制定したのに、肝心の日本は台湾に後ろ足で砂をかけるように『一つの中国』などという共産党の言い分を認めてしまったのか」と、日本版・台湾関係法の制定に賛意を示している。

櫻井よしこ氏はこれまでも、本会が2013年に「政策提言」として提唱した日本版・台湾関係法(日台関係基本法)の制定に言及している。

最初は、今年の9月19日に台北市内において開催された台湾安保協会(羅福全理事長)が主催する「両岸関係とアジア太平洋地域国際平和セミナー」で「日本の平和安全法制と日台の未来」と題して基調講演したことなどを報告した、9月24日発売の「週刊新潮」連載の「日本ルネッサンス」(673回)だった。

<いま日本では議員立法で台湾関係法を制定する動きがある。総裁特別補佐の萩生田光一氏は1年後を目標に置いている。日本の明確な意思表示は日台双方の国益のみならず、アジア全体に希望を与えるとの思いを強くした。>

また10月26日発売の月刊「WiLL」12月号の李登輝総統との特別対談「台湾が感動した安倍総理のひと言」でも、櫻井氏が日本版・台湾関係法を制定する動きを紹介しつつ「日本の明確な意思表示は日台双方の国益のみならず、アジア全体に希望を与えるのではないでしょうか」と指摘すると、李総統は「是非、進めていただき、台湾を諸外国と同様に扱ってもらいたい」と応じ、その制定に強い賛意を示されている。

このように、櫻井氏はこれまでも何度か日本版・台湾関係法に言及し、いままた月刊「Voice」1月号の門田氏との対談でもその制定の必要性を強調し、門田氏も賛意を示した。

台湾が日本の生命線であり、日本と台湾の運命共同体というべき関係やその共有する歴史を知る日本人なら、日本版・台湾関係法の制定を望まない人はいないのではないかと、改めて思わされた対談だ。

それにしても、先の李登輝総統との対談も、今回の門田氏との対談も本当に息の合った対談で、読者に安心と得心の二つを与えてくれる。ご一読をお勧めしたい。

◆「国家のあり方」と映画『海難1890』の感動
  門田隆将ブログ:2015年12月5日