20161018-01台湾で、小規模な醸造所が製法や材料にこだわって造る「クラフトビール」が花盛りだ。続々と新たなブランドが生まれ、さまざまなビールをそろえる店がにぎわう。旺盛な起業意欲や委託生産できる醸造所の存在など、人気の裏には「台湾らしさ」ものぞく。

「それぞれに個性があり、楽しい」。公営企業で働く陳蘭さん(40)はクラフトビールの魅力にはまって半年余り。7月末には台北で台湾のクラフトビール約20種を集めた「台湾グッドビールフェスト」を訪れ、飲み比べを楽しんだ。

企画したのは、クラフトビールの生産販売を手がける「台虎精醸」。金融業界で働いていた台湾系米国人の黄一葦さんら米台のビール好き5人が2013年、「米国などで広がったクラフトビール文化を台湾でも育てたい」と立ち上げた。

台湾では日本植民地時代の1920年に売り出された「高砂麦酒」にルーツを持つ「台湾ビール」が大きなシェアを持つ。すっきりとした飲み口のラガーが主流で、クラフトビールに多く、苦みや深みのあるエールはあまり飲まれていなかった。

黄さんらは米国などからクラフトビールの輸入を始め、15年1月には台北に約20種の生ビールを提供する「タップルーム」を開いた。クラフトビールに接する機会を増やす一方、他社での醸造経験が豊富な許若イさんを招き入れ、自社ビール造りに着手した。

小規模な施設で試作を繰り返し、今年5月に台北に隣接する新北市に醸造所を開設。生産を本格化させた。黄さんは「台湾では若い世代が起業し、デザイン性の高い商品や店をつくる新しい経済の流れがある。クラフトビールもこうした流れに乗っており、まだ伸びる余地が大きい」と語る。

15年設立の「禾余麦酒」は、コシヒカリを改良した台湾産の米を使うなど台湾産原材料にこだわったビールで知られる。台湾大学農芸研究所で学ぶ陳相全さんが、農作物に付加価値をつけるために何かできないかと指導教官と話し合い、ビール造りに行き着いた。

協力農家が作った小麦やとうもろこしなど、原材料の3~4割が台湾産だという。陳さんは「台湾当地の味をビールに生かしていきたい」と話す。ホップの苦みを「唐梅」などと呼ばれるロウバイで代用したビールも最近売り出した。

■委託生産方式、起業に追い風 3年で20社近く増加

台湾では02年の世界貿易機関(WTO)加盟でビール製造が1社独占から民間に開放され、ベルギー風ビールを造る「北台湾麦酒」などが設立された。

だが、消費者はこうしたビールになじみが薄く苦戦。一方で10年ごろから自家醸造が盛んになり、愛好者が増えたことでビールに対する理解が深まり、クラフトビールブームにつながったという。

お茶を使ったビールで有名になった「ヒ酒頭」は、酵母の専門家ら自家醸造の愛好者3人が立ち上げた。愛好者同士で知り合い、2年ほど前から商業化を検討し始めたという。

夏至や立秋など「二十四節気」にちなんだビールを造り、昨年5月に最初の商品を売り出した。7月半ばに売り出した「小満」は台湾で夏によく飲まれるトウガン茶を加え、懐かしさを感じる味わいに仕立てた。

台湾でクラフトビールを手がける会社はこの3年で20社近く増え、全部で30社ほどとされる。

背景にあるのが起業の容易さと起業意欲の高さだ。台湾は電子部品の委託生産で知られるが、ビールの世界でも「代工」と呼ばれる委託生産が行われ、ヒ酒頭や禾余麦酒など多くがこの方式を採っているのだ。

代工の大手が「徳意生物科技」(桃園市)。十数社の生産を請け負っているという。同社のトウ心承さんによると、委託側がビールのレシピを持ち込み、同社が醸造法を調整する。

トウさんは「自社ブランドの製品の営業に力を入れずに済む」と生産だけを手がけるメリットを語る。一方で委託側は生産設備に多額の投資をしなくてすみ、経営リスクが少ない。

代工に対しては、「だれが造ったビールなのかはっきりしない」といった批判もある。だが、トウさんは言う。「台湾人は自分で会社をやりたいという思いが強い。それを可能にするのが我々だ。ここはクラフトビールの『夢工場』だ」(台北=鵜飼啓)