日本の官公庁が御用納めだった一昨日(12月28日)、交流協会が来年1月1日から「交流協会台北事務所」の名称を「日本台湾交流協会」に変更すると発表したことに対し、台湾の外交部は歓迎の意向を表明した。
しかし、中国政府はよほど気に入らなかったようで、メディアはいずれも「強烈な不満」「極めて不快」「強い不満」を示したと報じている。習近平の苦虫を噛み潰したような顔がありありと浮かぶ。
中国外務省は、この名称変更は「『二つの中国』のたくらみ」だと断定し、日本に対し「一つの中国」原則の維持や台湾関連問題への適切な対応を求めると同時に「台湾当局と国際社会に誤ったメッセージを出し、中日関係に新たな障害をつくってはならない」(時事通信)と述べたと伝えている。
日本は、中国と1972年9月29日に国交を樹立したことで、それまで台湾の中華民国と結んでいた日華平和条約を「日中関係正常化の結果として、日華平和条約は存続意義を失い、同条約は終了した」とする一片の外務大臣談話で一方的に破棄し、国交を断絶した。
国会で批准した条約を、外務大臣談話で破棄するという違法行為は、法治国家を標榜する日本にとって最悪の選択だった。
それでも台湾との関係を維持するため、日本は1972年12月8日に財団法人交流協会を設立し、12月26日に台湾側のカウンターパートである亜東関係協会との間に「在外事務所の相互設置に関する取決め」を調印、台北に大使館に相当する「交流協会台北事務所」、高雄に領事館に相当する「交流協会高雄事務所」を設置した。
つまり、交流協会は1972年12月26日から2016年12月31日までの44年間、どこの国なのかよく分からない「交流協会」と名乗っていた。
では、世界各国の在外公館は台湾でどういう名称を名乗っているかというと、アメリカは「米国在台湾協会(AIT:American Institute in Taiwan)」、イギリスは「英国在台弁事処(British Office Taipei)」、フランスは「法国在台協会(La France à Taiwan)」だ。名称には自国名と「台湾」が入っている。「ベルギー台北弁事処(Belgian Office, Taipei)」と名乗るベルギーは台湾ではなく「台北」となっているが、少なくとも自国名は入れている。
下記に紹介する朝日新聞の記事によると、イギリスの場合、それまでの「英国貿易文化事務所」を「英国在台弁事処」という名称に変更したのは昨年のことで、実態に沿った名前に変えたという。
ところが中国は、日本が自国名と台湾を入れて「日本台湾交流協会」に名称を変更すると発表するや烈火のごとく怒り、「『二つの中国』のたくらみだ」「中日関係に新たな障害をつくってはならない」と強烈な不満を表明して抗議してきた。
それで思い出すのが、交流協会台北事務所が2012年12月に「天皇誕生日祝賀レセプション」を台湾で再開したときのことだ。このとき中国は今回と同じように、強烈な不満を表明して日本に抗議してきた。しかし、当時の内田勝久・交流協会台北事務所代表は「各国の在外公館が独立記念日などのナショナルデーを祝うレセプションを開いていても、中国は抗議していない。なぜ日本にだけ抗議するのかよく分からない」と、中国の抗議を意に介さず、外務省の了承の下に粛々と「天皇誕生日祝賀レセプション」の開催に踏み切った。
今回の名称変更の表明で、中国は日本に抗議してきたが、果たしてアメリカやフランスにも在外公館の名称で抗議しているのだろうか。イギリス政府の名称変更に抗議したのだろうか。
中国が抗議したかどうかは寡聞にして知らないが、日本も各国同様、実態に沿って名称を変更するに過ぎない。44年という年月はけっして短くない。日本はようやく「1972年体制」克服の第一歩を踏み出した。小さな一歩かもしれないが重要な一歩だ。これが「戦後レジーム」からの脱却の一環であることは他言を要しまい。
名称に「日本」追加へ 対台湾窓口機関「交流協会」
【朝日新聞:2016年12月28日】
日本の対台湾窓口機関「交流協会」は28日、来年1月1日付で名称を「日本台湾交流協会」に変更すると発表した。交流協会台北事務所は事実上の日本大使館として機能しているが、これまでは名称に「日本」が含まれず、分かりにくいとの指摘が出ていた。
日本は1972年9月、中国との国交正常化に伴い、台湾と断交した。日台関係は経済や文化などの実務関係と位置づけられ、同年12月に大使館に代わる窓口として交流協会が設立された。ただ、中国への配慮から非公式関係を強調するため、名称に「日本」が入っていなかった。
台湾と外交関係のない各国は、国名と「貿易文化事務所」などの名前で台湾に事実上の大使館を開設しているケースが多い。英国が昨年、「英国貿易文化事務所」を「英国在台事務所※」に名称を変えるなど実態に沿った名前に変える動きが出ており、台湾側も名称変更を希望していた。
発表を受け、台湾の外交部(外務省)は「新名称は協会業務の実際の意味合いをはっきり反映させたもので、台日関係が正しい方向に発展していることを示している」と歓迎した。
※本会事務局注:中国語での正式な名称は「英国在台弁事処」