【ワシントン=古森義久】訪米中の台湾の李登輝前総統は20日午前、ワシントンのナショナルプレス・クラブで演説し、台湾住民の中国人とは異なる新たな「台湾人認識」の確立を強調するとともに、長期の目標として台湾が完全な民主主義国家への道を進むだろうと述べた。

李前総統は「台湾の民主主義への道」と題するこの演説で米国の民主主義の伝統を称賛しながら台湾も人類の普遍的な価値としての民主主義への道を確実に歩んでいると述べる一方、「しかし台湾内部では中国の独裁政権に支持された反民主主義の一部勢力がなお影響力を行使している」と語った。

李氏は中国の動きについては「軍事的威嚇や経済的誘惑で台湾を大中華圏内に強制的に併合しようとしている」と述べながらも、台湾住民の間には「新時代の台湾人」としての中国人とは異なる台湾人アイデンティティー(自己認識)が広まったとして、この認識と民主主義との組み合わせが重要だと強調した。

李氏は台湾の将来に関して(1)民主的価値への信頼を失わない(2)民主的機能が支障を生じない(3)法的制度の改善が続く(4)2300 万の台湾人が台湾人認識を自然かつ適切とみなす-という諸条件が保たれる限り、民主台湾への脅威は致命的ではないとして、「将来のいつか、台湾は完全な民主主義国家になるという目標に向かい、より着実な措置を取る道を進むだろう」と結んだ。

演説後の質疑応答では李前総統は台湾の呼称を従来の「中華民国」から「台湾共和国」に変えるという案を米国マスコミに伝えたことを確認し、「国際社会の台湾への認知のためにはこの呼称が好ましい」と述べた。李氏は台湾独立に関連して「私は台湾の独立を提唱はしていない。台湾はすでに事実上の独立と主権を有しており、その宣言をいま求める必要はないと思う」と語った。同演説はナショナルプレス・クラブの中規模のホールで催されたが、会場は定員の 200 人を超える盛況となった。【10 月 21 日付・産経新聞】