戦後日本で出版された台湾語テキストの原点は、日本における”台湾独立運動の父”とも呼ばれる王育徳先生の『台湾語入門』、『台湾語初級』である。両書を出した日中出版が四半世紀ぶりに、この7月20日付けで台湾語テキスト『すぐ使える!トラベル台湾語』を刊行した。
本書の特徴は、正確さと、よく練られた企画による総合的な美しさだ。語学テキストに求められる正しさと親しみやすさを兼ね備えている。
これまで研究者の手によるものだけが、この正しさという基準をクリアしていた。一方、親しみやすさを同時に実現することが課題であった。本書ではこの点が克服されており、多くの学習者にとって福音となるであろう。
そして、簡潔にして最小限の文法説明。くどくどした説明がないのだ。台湾語学習者にとって「転調」のルールが難関であったが、本書では「近藤式矢印声調記号」により、その難関を飛び越えて、美しい発音を身につけることが出来る。
台湾滞在中に出会うさまざまな場面で用いる自然なフレーズが、女性の細やかな心遣いと、ネイティブの語感で精選してあるという点にも美学が感じられる。移動・宿泊など旅行のシーン、グルメ、ショッピング、リラクゼーション、緊急事態、台湾人との付き合いなど、台湾旅行を楽しむというコンセプトに貫かれた33課からなっている。各課は6フレーズからなる本文にくわえ、関連表現として10フレーズ程度が紹介される。読者はまた「コラム」、「ひとくちメモ」、「ポイント」によって台湾へ誘われ、現地の人々とのコミュニケーションの手ほどきを受ける。
本書を手に取ったら、29ページの「アコン(おじいさん)」、「アマー(おばあさん)」という単語のイラストをぜひ眺めてほしい。このイラストは実在の人物をモデルにしている。
近藤氏の母方の祖父は、文学博士にして台湾独立運動のリーダーであった王育徳先生なのだ。その静かに燃えつづける台湾への愛を孫娘が引き継いでいる。そしてアマーが彼女の台湾語学習を励まし、助けてきた。20歳から台湾語を学び始めたという近藤氏は同時に日本人の視点から見た台湾の魅力を良く知っている。この背景と台湾人の思いが、本書を美しい作品にまとめあげた。
近藤氏の現在の勤務先・台北駐日代表処の長でもある許世楷駐日大使も、「今までになく分かりやすく使いやすい台湾語学習書。ぜひ本書を持って台湾に行き、台湾語を使ってみてください。きっと台湾人との心の距離がぐっと近くなるはずです」と推薦の辞を寄せている。
『すぐ使える!トラベル台湾語超入門!』
近藤綾、温浩邦
日中出版
ISBN: 4817512695