20071016台湾に関心を持つ人で金美齢先生を知らない方はいないと言っても過言ではありません。金先生の夫君・周英明先生ががんで亡くなったのは昨年11月のことでした。

二人の出会いは日本。台湾から東大大学院に国費留学した周先生は超秀才。一方、活発でプレイガールだった金先生は、早大に留学する。二人は共に台湾独立運動に加わり、互いを認め合って結婚。

しかし、その独立運動のためにパスポートの更新ができず、二人は政治難民に。それでも二人は多くの難題を金先生の負けん気と周先生の論理的頑固さで乗り越えてきた。医者嫌いの周先生は一昨年春、末期の大腸がんとわかり、1年半の闘病の後、家族に囲まれて旅立った。金美齢先生がしっとり綴る夫との最後の日々と波乱万丈の夫婦愛物語。

『夫婦純愛』金美齢
小学館
ISBN: 4093877475

【10月27日付・産経新聞「産経抄」】
▼歯切れのいい論評で知られる金美齢さんが『夫婦純愛』(小学館)という本を上梓(じょうし)された。1年前に先だたれた夫の周英明さんの思い出を描いたものだ。40年以上も支え合った「純愛」がほのぼのとして伝わってくる。夫婦の絆についても考えさせる。▼お二人を結びつけたのは「留学」だった。台湾から日本にきている留学生組織の幹事役の選挙で、金さんが周さんに投票したのがきっかけだという。留学して台湾独立派に傾いていた金さんが、周さんのことをやはり独立派シンパと感じ取ったためだった。▼たかが留学生の幹事選びではなかった。当時、独立派は国民党政府から厳しい監視を受けていた。そうした中で日本への留学生たちは密(ひそ)かに独立運動を行っており、選挙もその舞台であった。言ってみれば、若い留学生二人が「同志」的に近づいていったのである。▼台湾だけでなく、かつて「留学」は重い意味を持ち、ドラマを生んだ。明治4年「岩倉使節団」とともに海を渡った留学生たちは、明治の国づくりという重責を担っていた。孫文による中国の辛亥革命では、日本に留学してきていた中国人たちが大きな役割を果たしている。(以降略)

【10月29日付・産経新聞「風を読む」 論説副委員長 矢島誠司「台湾独立とは中国からの独立ではない」】
▼以前、台湾独立派といわれる台湾の人たちからこう聞いて、驚いたことがある。それではどこからの独立なのか。「戦後、台湾に乗り込んできて台湾人を支配した中国国民党政権からの独立ということだ」。なるほどと思ったが、では中国からの独立は、と聞けば、「一度も支配されたことがない国からの独立を言う必要はない。ただ、中国が不当にも台湾を奪おうとするなら、われわれは祖国を守るために戦うばかりだ」。▼このとき以来、台湾問題の核心の一部が少しは分かった気がしている。その国民党政権からの独立は2000年の台湾総統選挙で台湾生まれの政党の陳水扁氏が当選してすでに果たしている。だから、いまも使われる「台湾独立」という言葉には、ややひっかかりも覚えるのだが、中国側はいまも、「台湾独立は絶対許さない」と言い続けている。▼先の中国共産党大会で胡錦濤総書記は「両岸(中国と台湾)の敵対状態の正式な終結」のための対話を呼びかけた。しかし、敵対したのはかつての中国国民党で、台湾の人からすれば、われわれは中国と敵対しているつもりはないのに、という思いではないか。▼とはいっても、中国側は着々と軍事力増強を図っている。軍事力バランスが中国側に傾く日も近いとされる。中国が圧倒的な軍事力を築いた後に、台湾に「統一」を迫れば、戦わずして「平和統一」も可能となりかねない。▼本当の「中国からの独立運動」は、そうした事態になってから起こるのだろう。台湾の人たちの不安は、そんなところにもありそうだ。台湾出身の評論家、金美齢氏の近著『夫婦純愛』を読みながら、こんなことを考えた。