日本は米仏やシンガポールに追従するなかれ

本会メールマガジン『日台共栄』編集長 柚原正敬

12月26日付の産経新聞の社説「主張」が、27日から訪中する福田首相に対し、台湾が3月の総統選挙と同時に行おうとしている「台湾の名義での国連加盟」の是非を問う住民投票について適切な助言を呈している(下記に全文を紹介)。

周知のように、すでにこの住民投票については中国の要求に応じたアメリカやフランスが反対を表明し、最近ではシンガポールも反対の姿勢を打ち出している(12月25日)。しかし、これは台湾を一度も統治したことのない中国の「台湾は自国領」とする言い分を丸呑みした明らかな内政干渉だ。

台湾の外交部が表明しているように、「この公民投票は台湾の民意を示すもので、台湾の人々が国連に参与したいという強い願いを表現するもの」に過ぎない。

ましてや、産経新聞が指摘しているように、日本はサンフランシスコ講和条約という国際条約にのっとって「台湾の帰属については発言する立場にはない」と主張してきたのであるから、中国の言い分に組してはならないのである。

この問題に関する宮崎正弘氏(評論家・本会理事)の見解でも指摘されているように、日本は、2004年の総統選挙のときに行われた住民投票に対して、アメリカに追従するように「申し入れ」を行って台湾国内に大きな混乱をもたらした。その失策を踏襲しないため、これまで何ら明確な方針を表明していない。

日本は「相手の嫌がることはやらない方がいい」のではなく、国益に適うなら、中国の嫌がることでもやらなければならない。日本は日本の国益のために、台湾の住民投票に口をはさむような内政干渉をしてはならないのである。福田首相の対応をしかと見極めたい。

【産経新聞(2007年12月26日付)主張】福田首相訪中 台湾への姿勢を変えるな

福田康夫首相が27日から4日間、中国を訪問する。中国側の主要な狙いのひとつは、台湾の陳水扁総統が計画する「台湾の名義での国連加盟」の是非を問う住民投票に対し、日本の反対表明を引き出すことにあるのだろう。

中国はこの住民投票が台湾独立につながると警戒を強めている。米仏は中国の求めに応じて反対の姿勢を打ち出したが、日本は従来の台湾政策を堅持し、これに同調してはなるまい。

福田首相の訪中は当初、1月の予定で調整が進んでいた。年内に繰り上がったのは中国側の働きかけによるところが大きい。日中の最大懸案である東シナ海のガス田問題では、今回の訪中で突破口が開ける状況にはない。

にもかかわらず中国が早期訪中を望んだのは、来年3月の総統選挙時に予定される住民投票が要因のひとつだろう。米国はこの住民投票を「台湾海峡の緊張を高める」(ライス国務長官)として反対を表明してきた。

中国は、台湾が独立問題をも住民投票で決めるような事態に発展するのを極度に警戒し、独立阻止のためには武力行使も辞さない姿勢を強調している。米国は台湾の安全保障に関与することを明示した台湾関係法を制定しているだけに、中台の緊張激化にひときわ神経質にならざるを得ない。

しかし、日本は台湾問題には慎重であるべきだ。日本は「台湾は自国領」とする中国の立場を「理解し尊重する」としているが、「サンフランシスコ講和条約では台湾への領土権を放棄したのみで帰属先は触れていないため、台湾の帰属については発言する立場にはない」と主張してきた。

親日感情の強い台湾に向け、日本の首相が「住民投票反対」を言えば影響は大きい。投票を強行しても住民投票不成立の可能性が高まる。日本の反対表明は、住民投票支持の与党、民主進歩党候補には不利に働き、野党の中国国民党候補には有利に働こう。

福田首相が住民投票に反対する姿勢を示せば、台湾住民は日本も中国の要求に屈したとみなし、対日不信を強めるだろう。日台関係にも悪影響を及ぼす。台湾海峡の緊張を高める結果にもつながりかねない。日本は台湾有事を誘発しないためにも、中台緊張緩和の橋渡し役となるべきだ。


【東京新聞(2007年12月26日付)社説】福田首相訪中 実のある議論で友好を

福田康夫首相が二十七日から中国を訪問する。アジアを重視する首相の初訪中を中国は歓迎している。東シナ海の資源開発や台湾など意見が異なる問題も、しっかり論議し友好の実を固めてほしい。

日中両国は小泉純一郎元首相の靖国神社参拝で両国関係が緊張し、首脳相互訪問が五年以上も断絶した。

昨年十月の安倍晋三前首相の訪中で再開したが、一泊二日の忙しい旅だった。福田首相による四日間の公式訪問を中国側は「第二の国交正常化」と位置付け、田中角栄元首相を上回る歓待で迎えると意気込んでいる。

福田首相もこれに応え、国会日程が立て込む中でも、首脳会談を終えた後、日中共通の伝統文化である儒教の祖、孔子の故郷の山東省・曲阜を訪れる。地方訪問は中国の国民感情を和らげるのに役立つだろう。

しかし、懸案を封印し、友好のエール交換に終始するのは野党党首に許されても、一国の首相には認められない。日中間には東シナ海の資源開発や台湾など難しい問題がある。

日中の主張する排他的経済水域(EEZ)が重なる東シナ海のガス田問題は、今年四月の温家宝首相の来日時に「今年秋」を目標に共同開発案を作ることで合意していた。

しかし、日本側が提案した、日中中間線の日本側まで共同開発を認める譲歩案に対し、中間線を認めない中国側の姿勢は、かたくなで局長、外相協議では合意に達しなかった。

中国がガス田の操業を本格化したり、日本が資源探査に踏み切ったりすれば紛争を招きかねない。解決には双方の首脳の政治決断が必要だ。

また、台湾の陳水扁政権が来年三月の総統選挙と同時に行うという「台湾名義での国連加盟の是非を問う」住民投票に、中国は武力干渉の可能性をほのめかし身構えている。

米国は台湾海峡の紛争への危機感を強め、「挑発的な政策だ」(ライス国務長官)と台湾に圧力を強めている。しかし、台湾は住民投票を望む二百万人以上の署名などを理由に米中の要求に応じる気配はない。

福田首相は東アジアの平和と安定を脅かす台湾海峡の緊張回避に向け、中国に自制を訴える必要がある。また、日台の歴史的関係を踏まえ、台湾に露骨な圧力とは、異なる独自の働き掛けを行う意義を説明し、理解を得るべきだ。

中国が要求している台湾問題への態度表明と、東シナ海問題の進展など日本側の要求を、てんびんに掛けるのは外交では禁じ手である。率直な意見交換を通じ、立場は異なっても、お互いへの理解を深めることが真の友好に道を開くのではないか。