本書は、蒋介石の生い立ちから命終までを、厖大な史料を駆使して丹念にたどり、その虚像、すなわち「神話」を徹底的に暴いている。
日本では蒋介石の「以徳報怨」という神話をいまだに信用している人々や団体がある。しかし、その蒋介石神話は本書によって完全に崩壊した。
台湾での「神話」の崩壊は日本以上に進んでいる。蒋介石統治を象徴していた中正記念堂が「台湾民主記念館」と改称されたことがそれを如実に物語っている。神話化に拍車をかけたのが蒋介石像で、それは43,000体も造られ(10万体という説もある)、台湾ではどこへ行っても見られた。だが近年、倒されたり撤去されたりして、どんどん少なくなっている。
カバー表紙は、蒋介石像を台湾各地から集めた桃園県大渓の「慈湖紀念雕塑公園」だが、何とも薄気味悪い。カバー写真の撮影者で、台湾留学中の早川友久氏(本会初代青年部長)は「あそこには一人では行きたくない。夜は特に遠慮したい」と洩らしている。まさに墓場であり、蒋介石の現在を雄弁に語っている。
本書カバーの裏の写真は、蒋介石の「身分証」で、学歴欄に「日本士官学校」とある。蒋介石は日本の陸軍士官学校には入学していない。蒋介石が日本に留学して学んだのは東京の振武学校という、陸軍士官学校の予備校だった。この明らかな学歴詐称が蒋介石「神話」を象徴している。
著者の黄文雄氏は、まさに蒋介石独裁下の台湾に青少年時代を過ごし、どのようにして蒋介石が神話化されていったかを肌身で知る世代だ。だが、「本来なら蒋介石を神として崇拝すべきだったのだろうが、大多数の台湾人と同じく、悪魔としてしか映らなかった。なぜなら、あの時代はもっとも台湾人として生まれた悲哀を実感させた白色テロ
の時代だったからである」(本書「まえがき」)と述べている。
台湾を理解するためには欠かせない一書である。
■書名 『蒋介石神話の嘘』
■著者 黄 文雄(文明史家、評論家、日本李登輝友の会常務理事)
■版元 明成社 http://www.meiseish a.com/
■体裁 四六判、並製、本文316ページ
■定価 1,575円(税込)
■発売 平成20年3月22日
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