20080405-03李登輝前総統は、読売新聞の訪問を受け、5月から始まる馬英九政権や今後の日台関係について所見を述べた。

また、ご自身の訪日についても触れ、昨年5月から東北を中心に訪ね歩いた「奥の細道」の後半部分を今年中に訪問する意向を示した。

昨年は、「奥の細道」全行程のほぼ中間地点である秋田県象潟までで訪日を終えており、今年の行程は残り半分。最終地点の岐阜県大垣まで巡るかどうかについては未定で、訪日時期についても明言はされなかった。

ただ、4月5日付の台湾紙・自由時報は、日本の消息筋の談話として「10月に、母校である京大を訪問し、農学部で講演をする計画が進んでいる」との記事を掲載、「柏久・京大農学部教授の招きによるもので、柏氏は、李氏の京大農学部時代の恩師・柏祐賢氏の子息でもある」と報じている。

李登輝前総統は、2001年に大阪を訪れた際、散歩途中で初めて、「いつの日か、芭蕉の奥の細道を辿り、李登輝の『私の奥の細道』を執筆したい」と公言し、7年越しの夢が叶った昨年の訪日では「今回辿った道のりは半分。まだ『私の奥の細道』を書く資格はない」と漏らしている。全行程踏破後は李氏が見た「奥の細道」観、日本観についての集大成を期待したい。

読売新聞の訪問を受けた李氏のインタビュー記事は早速台湾メディアによって大きく取り上げられている。特に、「対日顧問役に就任か」の部分については各識者のインタビュー等も流され、台湾国内でも大きな反響を呼び、李氏の影響力健在を示している。

李氏は、3月の総統選挙で投票2日前になって民進党の謝長廷氏支持を表明したものの、謝氏は200万票の大差で敗退。その結果から、「李登輝前総統の政治的影響力は費えた」とする報道も見受けられた。

しかし、先週も、産経新聞による独占取材で馬氏への評価や今後の日台関係についての展望を述べ、その記事も今回と同様に台湾メディアで大きく報じられている。李氏の動向が台湾で注視されているだけでなく、特に日台関係において未だ強い影響力を維持していることが台湾国内で再認識されている。


台湾新政権 来月発足 李登輝前総統に聞く 対日顧問役に意欲
年内の新潟・福井の「奥の細道」訪問意向を表明

台湾の李登輝前総統(85)は3日、台北市内で読売新聞とのインタビューに応じ、5月20日に次期総統に就任する馬英九・前国民党主席(57)の新政権下で、事実上の「対日関係顧問役」として、日台関係促進に努める意欲を示した。

李氏は「日台関係は中台関係以上に重要で、台湾経済発展のために日本との提携が重要だ。馬氏は日本をよく知らない。日本を知っている人間が仕事をしてあげるべきだ」と述べ、親日家として馬氏に協力する姿勢を強調した。ただ、李氏本人が要職に就くかどうかは「若い人にやらせるべきだ」と語った。

日台の一部には、外省人(中国出身者)の馬氏が、尖閣諸島の領土問題で厳しい姿勢を示した経緯があることなどから、日台関係の先行きを懸念する声がある。李氏と先月会談した馬氏は「対日関係発展で尽力するとの話があった。今後、李氏の教えをいただきたい」と述べており、李氏は、馬氏と日本との橋渡し役として重要な役割を担っていくものとみられる。

また、李氏は年内に日本を観光で訪問したいとの意向を表明、昨年に続き、松尾芭蕉の「奥の細道」をたどる旅をしたいとの考えを示した。訪問先としては新潟、福井両県などを挙げた。

一方、戦後2度目の政権交代が決まった3月の総統選について、李氏は「民主化の深まりを示したもので、私が12年間かけて作り上げた民主化がさらに進むのではないか」と評価した。国民党が大勝した原因について、李氏は「民進党が政権を取った2000年は民主化が一歩進んだが、その後の8年間はどうか。住民は、汚職にまみれた民進党に失望し、不満を強めた」と分析した。

今後の中台関係について、独立志向の民進党内には、対中融和派の国民党政権が「対中統一に傾く」との懸念がある。李氏は「台湾は事実上の一つの国。中台関係はかなりの時間をかけても解決できない。中国は、複雑な内部の問題処理に追われ、台湾問題まで手が回らない」と述べ、「統一」の動きが進むことはないとの見方を示した。
さらに李氏は、馬氏が掲げる中台直行便や中国人観光客受け入れ策への支持を表明、「表面的に中台関係は改善する」と語った。ただ、馬氏が目指す中国との平和協定は「できないだろう」とも述べた。(4月4日付・読売新聞)