私たち日本人は、台湾という「国」と言ってもよい地域が、日本の安全のためにどれほど重要な意味があるか、深い認識がなかったのではないか。台湾の総統が国民党になろうが民進党になろうが、それが日本どころか東アジアの将来にどんな影響を及ぼすことになるかまで、関心を寄せる人は少なかったかもしれない。
しかし、国際情勢の鋭い分析家である著者は、1970年頃より、台湾の地政学的位置、政治情勢に注目し、中国の主張、軍事力を注視しながら、台湾に民主主義が育つことを希求し、見守り続けた。この本は、1992年から2008年の総統選挙まで、16年にわたって著者が台湾に関して発表した論文に、自ら今の視点で論評するというユニークで、リアルタイムな臨場感をもたらす構成になっている。
過去に書いたものには、一切修正を加えず、著者の見通しと現実の情勢が異なったものとなっても、その真意は変わらないという、信念を通している。著者自ら台湾問題は、憂慮、焦燥、挫折の繰り返しであったと、告白しているが、日本の安全と平和は、このような地道な情勢判断、分析のおかげだと感謝せずにはいられない。