国民党の一党支配「かえって民主化はやりやすくなる」とも指摘

石川県金沢市の「八田技師夫妻を慕い台湾と友好の会」(中川外司・世話人代表)は、毎年5月8日に営まれている八田與一夫妻の墓前際に参列するため、6日から訪台し、その晩に行われた嘉南農田水利会主催の歓迎夕食会で同行する石田寛人・金沢学院大学長は李登輝前総統に年内の同大での講演を依頼すると発表した。

台南・烏山頭ダムで営まれた嘉南農田水利会主催のこの墓前際には馬英九・次期総統も参列し、日本統治時代については「許せるが、忘れない」という従来の立場を表明しつつも、八田技師を「一生懸命」の人と称賛し「八田技師の功績は誰もが評価している」と述べた。

台湾で八田與一の功績をもっとも高く評価しているのは、李前総統であり胸像を製作した奇美実業創業者の許文龍氏であることを思えば、馬英九氏の墓前際への参列は、マスコミが指摘するように「反日イメージの払拭」という面も確かにあろうが、李前総統や許文龍氏などへのアピールという面も見逃せない。

立法院を制し、総統も制した中国国民党を率いる馬英九氏は、蒋介石・蒋経国時代の「一党独裁」下の台湾人弾圧イメージを払拭し、台湾の自主独立派との「和解共生」姿勢を打ち出そうとしているようだ。それは、大陸委員会の主任委員(大臣に相当)に台湾団結聯盟所属で李前総統側近の頼幸媛女史を選任したことに現れていよう。また、この墓前際直前の5月6日、馬英九氏が許文龍氏を訪ねて懇談したこともその現れと見てよいだろう。

墓前祭を終えた八田技師夫妻を慕い台湾と友好の会は9日、淡水に李前総統を訪問し、石田寛人・金沢学院大学長は発表どおり李前総統に年内の同大での講演を依頼した。李前総統は「承知しました」と答え、その時期は「もみじのころ、9月か10月」とし、「奥の細道」をめぐる旅の途中に金沢へ立ち寄るとした、と北國新聞は伝えている。

また、北國新聞のインタビューで李前総統は、中国国民党について「独裁的な政府に陥るとの見方を否定し、一党支配で『かえって民主化はやりやすくなる』と指摘した。また、3月27日の馬英九氏との会談で「日本のことで話を聞きたい、何か知りたいなら、私は喜んで世話をしますと言った。ただ、具体的にどうするかは言っていない」と、その内容の一部を明らかにしつつ、「こんな高齢で大使や何かの役職に就くことはない」と台湾駐日代表処代表など、対日関係における責任ある立場への就任を否定した。

すでに3月末、産経新聞のインタビューで「駐日代表をやるには年をとりすぎたが、フリーランサーという形なら何かできると思う」と答えているが、それを改めて表明した形だ。

(メルマガ「日台共栄」編集長 柚原 正敬)