【読売】台湾新総統 中国も海峡の安定に尽くせ(5月22日付) 

新しい中台関係の模索の始まりである。台湾・国民党の馬英九氏が総統に就任した。8年ぶりの政権交代だ。 馬総統は就任演説で、中国と早期の関係改善を目指すと同時に、台湾海峡の現状維持を継続すると宣言した。

中国との関係では、「統一せず、独立せず、武力を用いず」の「三つのノー」政策を強調、中国との「和解と不戦」を訴えた。同時に中国の主張する「一つの中国」の内容は、双方が独自に解釈するとの過去の合意を受け入れた。

脱中国一辺倒だった陳水扁・前政権とは大きな違いだが、大陸で結党された国民党の総統として、中国とは「統一せず」と宣言した意味は大きい。

統一でも独立でもない、現状維持を選択する。それが住民の声の最大公約数である点を考慮すれば、当然の判断と言える。

中国も馬政権との対話を開始するに当たっては、こうした台湾の民意を十分に理解し、尊重する態度が重要である。

馬総統には選挙戦中から、中国寄りとの批判があった。それだけに対中関係を巡る考え方をはっきり示すことで、住民の大多数を占める台湾出身者を安心させ、政権発足に当たって、団結心を生み出そうとしたのだろう。

閣僚人事でも、対中政策を扱う大陸委員会の主任委員(閣僚)に、李登輝・元総統を後ろ盾にする独立派政党「台湾団結連盟」の元立法委員(国会議員)を充てた。同じような考え方がうかがえる。

馬総統は李氏を総統就任式に招待しており、李氏の知恵も借りようとしているようだ。

新政権の焦眉(しょうび)の課題は、中国市場を利用した台湾経済のテコ入れだ。近い将来には、中国側との間で、週末の中台チャーター直行便の開設や、中国人観光客の受け入れなどが開始されよう。

四川大地震では、台湾からの義援金の額が、他国・地域と比べてずば抜けて多い。台湾経済界の対中改善への期待が、それだけ大きいということだろう。

馬総統は、台湾海峡の安全保障で、米国との関係強化を訴えた。日本を名指ししなかったが、「理念が通じ合う国家との連携」との表現で関係強化をにじませた。

中国福建省には、台湾を威嚇するためのミサイル約1300基が配備されている。中国側にこれを撤去する気配はない。

馬政権の登場を契機に、中国も発想を変え、台湾海峡の安定に寄与することをしてもらいたい。


【産経】馬英九総統就任 台湾重視路線見守りたい(5月21日付)

3月の総統選挙で勝利し、8年ぶりに政権を奪回した中国国民党の馬英九氏が正式に台湾の総統に就任した。

馬氏は就任演説で、台湾の民主主義と、正直、勤勉、進取など「台湾の伝統的核心価値」を訴え、選挙中に示した台湾重視路線を改めて打ち出した。李登輝元総統を式典に招いたことにも馬氏の意図があったようだ。

香港生まれで、少数派の外省人である馬氏としては、台湾重視を言わない限り、4年後の再選が難しくなるためとの見方が強いが、就任演説で台湾重視の路線を最初に、そして最も強調したことには注目したい。

民主主義の発展、台湾の価値などを柱とする台湾重視路線は、日本をはじめ、民主主義国家が歓迎するところだ。馬総統の台湾化、台湾主体、台湾重視路線の今後を見守りたい。

注目の対中国政策では、「3つのノー」(統一せず、独立せず、武力を用いない)を改めて掲げ、実務的な経済関係の強化を通じて平和共存を目指すという現実主義的路線を打ち出した。主権問題は棚上げし、経済などで双方の「共同利益」追求を優先させるという現実重視の路線だろう。中国側も受け入れやすく、一定の進展が見込まれよう。

しかし一方で馬氏は、中国に国際社会での台湾圧迫をやめるよう要求、さらに中国に自由、民主、均富という孫文の理念の実現を迫った。また「台湾は安全、繁栄だけでなく、尊厳を求めている」とし、台湾人民の尊厳を守る姿勢も打ち出した。中国側がどのように反応するか注目したい。

馬新政権の課題の一つは陳水扁前政権で悪化した米国との関係改善だが、馬氏は米国との「安全同盟」と貿易の協力関係の強化をあげ、台湾防衛の決意も示した。

日本に言及はなかったものの、「理念が通じ合う国家との連携」という表現で日本との関係強化をにじませたようだ。式典会場の巨大スクリーンに演説の翻訳が英語と日本語だけで映し出されたことも馬氏の日米重視の姿勢をうかがわせた。

ただ、馬氏と国民党守旧派の意見対立もあるといわれる。台湾独立派の不信感も簡単に解消できるものではない。中国が主権問題を持ち出せば、馬氏が描く楽観的な中台関係は簡単に崩れ去ってしまう。前途は多難である。


【朝日】台湾新総統―現状維持は賢明な選択(5月21日付)

「統一せず、独立せず、武力を用いず」

台湾の新総統、馬英九氏(57)は昨日の就任演説でこう述べ、中国との関係について現状維持の立場で臨む姿勢を強調した。

この「三つのノー」は、3月の総統選挙の前から発言してきたことだが、中台関係の基本路線を改めて鮮明にしておきたかったのだろう。

独立志向の強かった陳水扁前政権の時代には、いら立つ中国との間で関係は冷え込んだ。8年ぶりの国民党政権の誕生を、中国は歓迎している。台湾海峡はしばらく波静かになりそうだ。

馬氏は、中台間の週末チャーター直行便を7月から始めたいなどとし、「両岸(中台)関係を新しい時代に入らせる」とも述べた。政治的な問題は前面に掲げず、対中投資の規制緩和など経済の面で結びつきを強めていこうという政策だ。

そのための関係改善はすでに動き始めている。馬政権のナンバー2、蕭万長副総統が就任前の4月、中国を訪れて胡錦濤国家主席と会談している。また、国民党トップの呉伯雄主席も近く訪中する。

だが一方で、馬氏は米国との緊密な関係を強化していくとし、国防力整備の必要も指摘した。交流は広げるが、中国による武力統一への警戒は緩めないということだ。

台湾海峡が安定することは、日米や周辺国にとってプラスだ。今後の中台対話を通じて、軍事的な緊張緩和にも一歩を踏み出してもらいたい。

中国は、台湾との衝突を想定した兵器の拡充や軍事訓練を重ねてきた。台湾の対岸には、千基以上といわれるミサイルを並べている。台湾も対抗して新兵器の開発を進めている。こうした軍拡競争を止め、相互の信頼を高めるような措置はとれないものか。

外交面でも、安定した中台関係に向けて工夫の余地がある。

ジュネーブで始まった世界保健機関(WHO)総会で、台湾が切望するオブザーバー参加は、中国の反対で議題にすらなっていない。新型インフルエンザなど感染症の脅威は、地球全体の問題でもある。人道的な見地から中国は度量を見せてはどうか。

中台の結びつきが強まれば、投資や物流などこの地域の経済にも大きな変化をもたらすかもしれない。日本企業も目を離せまい。

馬新総統には、歴史問題をはじめ日本に厳しい視線を向けているという見方もあった。だが、最近は植民地時代に水利事業で台湾に貢献した日本人技師の慰霊祭に出席するなど、良好な関係を築いていきたいとの意欲を示している。

日本も、中台関係の安定を支えていけるような外交を強めたい。


【毎日】馬英九総統 中台は互恵不武で対話を(5月22日付)

台湾の新しい総統に国民党の馬英九氏が就任した。

陳水扁前総統は、最後まで台湾独立へ執念を燃やし、総統選挙と同時に独立問題にかかわる住民投票を実施した。だが投票率が低く住民投票は成立しなかった。台湾の民意は、独立か統一かについて、判断を回避したということになる。現状維持と単純には言えない微妙な意思表示だった。

馬政権の最大の政治課題は、この民意を踏まえて、前政権の8年間に断絶していた中国との関係を、どのように、どこまで改善するかである。

中国は台湾という国家の存在を認めない。中国の言う「統一」とは、最終的には中華人民共和国に台湾を併合することだ。

馬総統は就任演説で「統一せず、独立せず、武力行使せず」の「三つのノー」の持論を繰り返した。中国への併合を拒むという意味では現状維持である。だが、中国との交流の拡大という現状変更も、同時に実現するという。

陳前総統の時代、中国は驚異的な経済成長を達成した。民進党政権のもとで中国市場への参入を規制された台湾資本はバスに乗り遅れるとあせった。中台直行の航空路線開設や対中投資規制の緩和などが馬政権に期待されている。

しかし中国には中国の立場がある。馬総統の「統一せず」を受け入れることは難しいことだろう。

中国は「台頭する中国」を自任し統一実現に自信をつけてきた。とくに江沢民前国家主席の時代には、台湾へ向けたミサイルを背景にして統一のロードマップ作りを志向して反国家分裂法を制定した。

胡錦濤主席になって共産党と国民党との「国共会談」が再開され、対話路線への傾斜が強まった。独立派と対抗する馬政権の登場を、中国は歓迎している。だが、現状維持が続くならいずれ蜜月は終わる。その前に馬総統は安定した中台の対話の枠組みを作らなければならない。

李登輝元総統の時代には海峡交流基金会など民間の窓口だけだった。いまは国共両政党の対話はある。だが、本質的には軍隊がにらみ合う台湾海峡で平和を保つための対話が必要なのだ。それなのに胡主席は馬総統と直接会談をしない。中華民国総統の存在を認めたら「一つの中国」の原則から外れるからだ。

いっそ敵国同士なら第三国の仲介で首脳会談が可能なのに、「同胞」の中台トップが直接会って信頼感を醸成することができないというのは、やはりおかしい。

「三つのノー」で最も重要なのは「武力行使をしない」すなわち「不武」である。統一か独立かの前に、「互恵」と「不武」の二つの原則で胡主席と馬総統がお互いに非公式訪問したらどうか。形式論理を捨て発想の転換をすべきだ。


【日経】馬総統は中国に民主化促せ(5月21日付)

台湾の新総統に国民党の馬英九氏(57)が就任した。馬総統は1999年に中断した中国との対話再開の「歴史的機運」をつかみたいとの強い意欲を示し、対米関係強化も打ち出した。中台関係の安定につながる呼び掛けとして評価したい。

1週間ほど前、中国大陸を四川大地震が襲った。陳水扁前政権は政権末期だったが、台湾当局は直ちに8億台湾ドル(約27億円)の緊急援助を決めた。日本政府の5億円などに比べても、けた違いだった。

大地震で中国政府は日本に続き、台湾からも直行チャーター便で援助隊を受け入れた。異例の中台連携といえる。馬総統は就任演説で「台湾人民は党派を問わず、哀悼の意を表している」などと見舞いの言葉も述べ、援助の継続を約束した。

馬総統は演説で対中関係の大枠として「統一せず、独立せず、武力を用いず」という「3つのノー」を提示した。台湾海峡の現状を維持し、独立を宣言しないことを明確にすることで、中国側に配慮した形だ。

中台対話を巡っては99年7月に李登輝総統(当時)が提起した「二国論」に中国側が反発。翌年発足した陳水扁政権は「一つの中国」の受け入れを拒み、対話は途絶えた。

再開に当たっては、台湾側が「お互いに1つの中国を認めるが、具体的な内容はそれぞれが表現する」ことで合意したとしている「92年合意」の扱いが焦点になる。中台双方がテーブルに着くまで乗り越えなければならない障害も少なくない。

大地震という不幸が介在したとはいえ、敵対関係が続いてきた中台間で信頼醸成も徐々に進みつつあるのではないか。99年9月の台湾中部大地震の際にも江沢民国家主席(当時)が援助の提供を申し出た。

国民党の呉伯雄主席が26日から訪中するなど共産党との交流は続いている。8月の北京五輪を控え、中国の胡錦濤政権は今こそ、台湾との政治対話を復活させるべきだ。

馬総統は就任演説で「中国大陸が自由、民主、富の均等化を進める道を歩むことを切に願う」と訴えた。台湾は96年から総統の直接選挙が始まり、民主化が定着しつつある。人権重視の立場から、中国との対話では民主化もぜひ促してほしい。


【東京】馬総統就任 台湾海峡安定に全力を(5月21日付)

三月の台湾総統選で当選した国民党の馬英九氏が二十日、総統に就任し陳水扁政権下で途絶えていた中国との対話再開を呼び掛けた。中国は関係改善に応じ、共に台湾海峡の安定を図ってほしい。

馬総統は就任演説で、中国の四川大地震に言及し援助や復旧に進んで協力する立場を強調した。

異例にも中国の胡錦濤国家主席が台湾に呼び掛けた「争いを棚上げして、共にウィンウィン(互恵)を」などの言葉を引用し「理念は一致する」と言い切った。

中台対話は一九九〇年代末から、中国が前提とした「一つの中国」を認めるかどうかをめぐり中断してきた。しかし、馬政権誕生を待たずにこの日、副総統に就任した蕭万長氏が四月に訪中し、胡主席と会談した。今月二十六日には呉伯雄国民党主席も与党トップとして初めて訪中する予定で、急速に双方の雪解けが進んでいる。

中台は国民党政権時代の一九九二年に「一つの中国」の原則を認め、定義をそれぞれ解釈することで合意したことがある。馬総統は、この合意に基づく対話再開を呼び掛けた。中国側も「一つの中国」をめぐる論議を蒸し返さず早急な対話に踏み切るべきだ。

馬総統は対話再開に向け、中台が外交のある国を奪い合い、中国が台湾を国際組織から締め出す外交戦争の「休戦」を呼び掛けている。圧倒的優勢にある中国は大国の度量を示すときではないか。

台湾の各種世論調査では台湾海峡の現状維持を望む声が圧倒的多数を占める。馬総統は総統選で掲げた中国とは「統一せず、独立せず、武力を用いない」という立場をあらためて確認した。

中国が「継続して自由、民主、富の平等の大道」を歩むかどうかが中台関係を最終的に解決するカギとなると述べた。このため、「安全保障と貿易のパートナー」である米国との関係を強化。「理念が通じ合う」国々と協力を拡大するとしたが、歴史的関係が深く民間交流も拡大する日本に言及しなかったのは残念だ。

馬総統が就任演説に示した方針を実現するためには、国民党政権の長期的な安定が前提になる。

自ら戒めたように国民党独裁時代の「不法盗聴やメディアへの干渉」が復活し、民進党政権が陥った「権力の腐敗」を招けば、四年後に必ず有権者の審判が下る。

「台湾を主とし人民の利益を」はかる施政の原則を守れるかどうかに、すべてがかかっている。