台湾から6月20日付発行の「台湾歌壇」を贈っていただいた。昨年12月20日発行の第八集に続く第九集だ。蔡焜燦氏が代表として「巻頭の言」を執筆されている。あれと思いページを繰ってみると、役員改選の報告があり、2年に1度の役員改選で鄭埌耀代表の強い希望もあって蔡氏が新たに代表に選出されたそうだ。
蔡焜燦先生、呉建堂氏が創設した歴史ある「台湾歌壇」代表へのご就任まことにおめでとうございます。
『台湾万葉集』で知られる呉建堂氏が創立してから40年を迎え、「台北歌壇」から「台湾歌壇」に正名してから5年目を迎え、蔡焜燦代表は「巻頭の言」で「これからもお互いに切磋琢磨して名実共に台湾を代表する短歌結社として歩んでまいりましょう」と訴え、「若返った気持ちで、世界にも稀有な(日本にとっては異国となったこの国に存在する美しい言葉で侘や寂、人生を詠いあげる)「和歌の会」を守って共に歩んで行こうではありませんか」と結んでいる。
呉建堂氏と言えば、宮中歌会に招かれた外国人はドナルド・キーン氏が初めてだったが、翌平成8年(1996年)に招かれている。国交のない台湾の歌人を宮中歌会は招いたのである。日本の皇室の進取性を実感させてくれる一大事件だった。
第九集には蔡代表は「美(うま)し山見る」と題して12首発表されている。
教へ子の集ひて祝ふ誕生日六十年経るも縁は強し
体育教師だった蔡代表の教師時代の教え子の方々が集って誕生日をお祝いしたことを詠まれたようだ。「縁は強し」に感慨が凝縮されていて心地良い。
一方、台湾の総統選挙を詠まれた歌もある。
この一戦天下分け目の戦ひぞ起て同胞(はらから)よこの宝島(しま)護らん
蔡代表は自ら「愛日家」と名乗って憚らない。しかし、愛国心もまた人一倍強いこともよく分かる歌だ。
この「宝島」に、万葉以来の美しい日本語で侘や寂、人生を詠いあげる「台湾歌壇」があることを、日本人はもっともっと知るべきだろう。
第九集を贈っていただいた常務運営委員の黄教子さんのお便りには「毎回年を重ねながらも、命の限り短歌を詠み続けていこうと、励ましあいながら歩んでおります。今後ともどうか台湾歌壇をお見守りくださいませ」とあった。
第九集に寄せた黄教子さんの歌は「台湾に住む」と題して12首。数首を最後にご紹介したい。
生きの緒の続くかぎりを歌詠むと台湾歌人傘寿越しゆく
眠れざる未明を迷はず起き出でて父の歌集をしみじみと読む
杖をつき鍋いつぱいの豚足を届けたまひぬ「おふくろの味」とて
これよりは祖国遠のきゆくといふ思ひしくしく台湾に住む
4首目は、政権が変わり、台湾から中華民国へと逆戻りするような雰囲気が出始めている台湾に日本から嫁いだ黄教子さんの最近の感懐だ。友邦台湾をそうさせてはなるまいと改めて思った。
(メルマガ「日台共栄」編集長 柚原 正敬)