李登輝元総統も「この偉業を語り継ぐ義務が、我々にはあるでしょう」と推薦

20090603本会メールマガジンで、5月13日発売の「SAPIO」誌(小学館)で、ノンフィクション作家の平野久美子氏が鳥居信平(とりい・のぶへい)について執筆していることをお伝えした際に、単行本として『水の奇跡を呼んだ男-日本初の環境型ダムを台湾につくった鳥居信平』を出版することもお伝えした。昨日、鳥居信平の軌跡を初めて描いたこの本が発売された。

帯の推薦の言葉は李登輝元総統が書かれている。
「鳥居信平がつくった地下ダムが、今も役に立っている。実に頭の下がる思いがします。この偉業を語り継ぐ義務が、我々にはあるでしょう」

本書は、日本でほとんど知られていない鳥居信平の初の評伝であり、実によく目配りされている。

平野久美子さんは大正12年(1923年)に完成した地下ダム「二峰圳」(にほうしゅう)のある屏東県へ何度も取材に訪れ、その工法に驚いて研究しはじめた丁澈士(てい・てつし)国立屏東科技大学教授をはじめ、胸像を制作した許文龍さん、当時の工事に参加したパイワン族の歴史を口伝する女性、ご長男で南極観測の越冬隊隊長を2度つとめた鳥居鉄也氏、その妹の月島峰子さん、生まれ故郷である静岡県袋井市の方々などの関係者もさることながら、素人にはいささか分かりにくい地下ダムについては専門家の解説や評価を取り込み、鳥居信平が勤務していた台湾製糖の歴史を台湾の糖業史とからめて解説している。

鳥居信平の二峰圳は八田與一の烏山頭ダムや嘉南大圳に先行しているので、それとの対比もきちんとなされている。
さらに平野さんは、社命があったとはいえいったい「何が信平を突き動かしていたのか?」という視点も忘れない。鳥居信平や八田與一という先人の努力と気概はいったいどこからきていたのか、モチベーションを探るのである。平野さんは「私利私欲を排して公益に尽くす気概や国造りの大志」があったからではないかと説く。実に平野さんらしい視点であり、それはまた台湾のお年寄りたちが「多くの日本人が、台湾のために献身的に働いてくれた」と評価することへの「解」ともなっている。

■著者 平野久美子
■書名 水の奇跡を呼んだ男-日本初の環境型ダムを台湾につくった鳥居信平
■体裁 四六判、上製、240ページ
■発行 産経新聞出版
■発売 日本工業新聞社
■定価 1,680円(税込)