12月17日、奥多摩の笠松展望公園において李登輝学校日本校友会(天目石要一郎理事長)の主催により台湾出身戦歿者慰霊祭を執り行った。
この日は雲ひとつない晴天に恵まれた。新宿駅に午前8時30分に待ち合わせ、47分発の「ホリデー快速おくたま5号」に乗る。下車する「奥多摩」駅まで乗り換えなしで行ける。
三鷹駅を過ぎたころから雪を冠した富士山が車窓から大きく見えはじめ、冬晴れに映える山容が実に美しい。
奥多摩駅では、車で1時間ほどの武蔵村山市に住む天目石氏らが出迎え合流。参加者は11人。台湾出身の84歳の元日本兵から23歳の青年まで年齢も職業もさまざまだが、台湾出身戦歿者を慰霊したいという志で結ばれた仲間だ。23歳の青年などは、今年の9月、一人で台湾に行き、何と屏東のクスクス村(高士村)を訪ね、NHK「JAPANデビュー」問題の高許月妹さんとお会いしてきたという強者(つわもの)だ。
それにしても、さすがに奥多摩まで来ると空気が違う。澄んでいる。ピンと張りつめたような感じだ。
天目石氏は車で来ていたので同乗組とバス組に分かれて、いざ笠松展望公園へ。バスは下車する「峰谷(みねだに)橋」まで青梅街道を30分ほど走る。眼下に旧青梅街道が走っているという。「山の枯れ木も息をする」という中原中也の詩の一節を思い出させるような、陽に映える紅葉の終わった山々を見つつバスは走る。
奥多摩湖の畔にある峰谷橋で降りると、車で先行した天目石氏が待っていてくれた。分乗して笠松展望公園の途中まで車で向かう。山の尾根に道をつけた、ようやく軽自動車1台が通れるような幅しかない。山梨へ抜ける街道のようだ。道のそこかしこに古ぼけた「道祖神」や「馬頭観世音」の石碑がある。
本当に急な坂だ。途中までコンクリートで舗装された道だったが、後はジャリ道だ。杉木立の中を、息を切らしつつ15分ほど登る。右手は急峻な坂となっていて、木立の隙間から奥多摩湖が見える。前方右手にしっかり組んだ石垣が見え、少し開けたようなところに、先行組が手を振っている。
途中まで車で送ってもらったからまだしも、青梅街道からこの街道を登ってくるとなると30分はかかるだろう。
少し開けたような感じを受けたのは、ほぼ峠の近くだったからで、手前に写真で見た蕃刀をかたどった記念塔が聳え立ち、その向うに記念碑が見える。夏はうっそうと葉が茂っていた木々も、今は葉を落としているので、木々の間から奥多摩湖が見える。なるほど「展望公園」だ。奥多摩湖を眺めるように、木製のベンチが2つ3つ据えられている。
記念碑は昭和50(1975)年8月15日に台湾出身戦歿者慰霊奉仕会によって建立され、記念塔は同53年11月、同じく台湾出身戦歿者慰霊奉仕会によって建てられている。
後続組もたどり着いた。慰霊祭を始める。奥多摩駅で買い入れた生花を献じ、天目石氏が神式の作法で拝礼し、祭文を奉読。天目石氏の声が震えている。しんしんと降りてくる冷気のせいではけっしてない。祭文奉読の後、靖國神社からいただいてきた御神酒を捧げた。
ここで昼食を摂る。捧げた御神酒をみなで飲みほそうと、箱を開ける。酒瓶の形は五弁の桜の形をしていて、色も桜色だ。ラッパ飲みよろしく、みなで回し飲みする。あっという間に2本を空にした。
それにしても冷える。手はかじかんでくるほどだ。この日の奥多摩は最高気温が8度ということだったので、この山の中は5度くらいしかなかったのかもしれない。木立におおわれているため、記念碑まで陽は届かない。
雑草が生えていたら抜き取ろうと計画していたが、冬なので雑草も生えていない。そこで引き上げることとし、街道を下った。
バス停の奥多摩湖には「水と緑のふれあい館」があり、奥多摩湖が出来上がるまでの写真などを展示している。いわば博物館だ。奥多摩湖付近にはカモシカや猿、ツキノワグマも出没するという。ふれあい館では食事もできお土産も買える。ここでバスが出る3時近くまで一休みする。
近くには「鶴の湯」という温泉旅館もあり、初日の出を見ようという客で年末年始は込み合うという。参加者からは「ここで1泊してから初日の出を拝み、それから慰霊祭をやったらどうか」という意見も出てくる。
確かにそれも一案だ。箱根もいいが、東京には奥多摩がある。ただ、雪が積もったらあの急な坂は登れないだろう。それでなくとも、あの険しい坂を登っての参拝はなかなか難しい。移転したらどうかという話が出てくる所以でもある。
この「ふれあい館」から、先に帰宅する方や青梅市御岳ある川合玉堂美術館に行きたいという方もいて、ここで解散し、笠松展望公園における台湾出身戦歿者慰霊祭はこれをもって終了した。下記に天目石理事長が捧げた「祭文」をご紹介したい。
東京から3時間、けっして短い時間ではないが、近くといえば近くにある笠松展望公園の台湾出身戦歿者を祀る記念碑と記念塔。お近くにお住まいの方はぜひ参拝されたい。私どもの参拝の前日、埼玉県飯能市に住む本会会員の方が参拝している。さぞや御霊も喜ばれたことだろう。