設立10年目を迎えた本会は去る3月25日、東京・千代田区内のホテルにおいて、理事・監事の役員、総会出席有資格者の正会員、賛助会員、法人会員の350名(委任状提出者261名を含む)が出席して、会則第17条第1項に基づき第10回定期総会を開催しました。

総会では、「日米台の安全保障等に関する勉強会」でとりまとめた本会初となる「政策提案」が可決され、「台湾正名運動の継続推進」や「台湾の国際法的地位に関する提言」などの事業計画も可決、本会ならではの内容となっています。

この政策提言は会長・副会長の連名で4月3日に、野田佳彦・内閣総理大臣、玄葉光一郎・外務大臣、枝野幸男・経済産業大臣、田中直紀・防衛大臣、鹿野道彦・農林水産大臣に送付済みで、ほかにも親台派の国会議員(52名)にも送付しています。

本会が集団的自衛権と日台FTAに関する「政策提言」を発表

設立10年目を迎えた本会は去る3月25日、東京・千代田区内のホテルにおいて第10回定期総会を開催、「日米台の安全保障等に関する勉強会」で取りまとめた本会初となる「集団的自衛権」と「日台FTA」に関する「政策提言」を可決した。

この2つの「政策提言」は日本の国益のため、ひいては台湾のためにも喫緊の課題で、小田村四郎会長は4月3日、副会長(岡崎久彦、加瀬英明、黄文雄、田久保忠衛、中西輝政)5名との連名で、野田佳彦・内閣総理大臣、玄葉光一郎・外務大臣、枝野幸男・経済産業大臣、田中直紀・防衛大臣、鹿野道彦・農林水産大臣に送付し、また日台交流や台湾問題に関心が深い約50名の国会議員に送付、さらに李登輝元総統はじめ蔡焜燦・李登輝民主協会理事長、羅福全・台湾安保協会理事長、許世楷・前台北駐日経済文化代表処代表など台湾の要人40名に送付している。

「集団的自衛権」に関する政策提言は、「集団的自衛権は保持しているが行使できない」という現行の憲法解釈が、日米同盟の緊密化を阻害し、その実効性を強化する上で大きな足かせとなってきたことに鑑み、「国家としての強い決意を内外に示す上で最も効果的な方策は、集団的自衛権の行使に関する政府の現行憲法解釈を修正することである」として、憲法解釈の修正を求めている。

一方の「日台FTA」に関する政策提言は、「日本と台湾とは、その緊密な貿易、経済関係を考えれば、二国間の自由貿易協定(FTA)を締結するに最もふさわしい間柄」であるとして、「外交、通商政策上の有力なカードとなり得る日台FTA」の早期締結を提言している。

この「政策提言」を取りまとめたのは、昨年、本会内に設置した「日米台の安全保障等に関する勉強会」で、座長は川村純彦・常務理事(元第5及び第4航空群司令、海将補、岡崎研究所副理事長)がつとめ、常時10人ほどのメンバーが集い、毎回4時間ほど、発表者の内容にそって研鑽してきた。

川村座長は去る4月18日、日本文化チャンネル桜に出演、この「政策提言」について解説している。奇しくも番組(防人の道 今日の自衛隊)キャスターは濱口和久氏で、濱口氏もメンバー の一人だ。

川村座長は政策提言の「緒言」というべき、提言に至る現状分析や問題意識について執筆しているので下記に紹介し、YouTubeにアップされた番組を紹介したい。

また、政策提言1:「集団的自衛権に関する現行憲法解釈を修正せよ」と政策提言2:「台湾との自由貿易協定(FTA)を早期に締結せよ」の全文を紹介したい。さらに、提言の背景を説明する金田秀昭氏と梅原克彦氏による「論考」も併せて紹介したい。

なお、「日米台の安全保障等に関する勉強会」は「日米台の安全保障等に関する研究会」と改称してメンバーを補充し、今年度からは「台湾の国際法的地位」という新たなテーマに取り組み、同様の「政策提言」をまとめることを先の総会で可決している。


政策提言
 平成24(2012)年3月25日
日本李登輝友の会
会長:小田村四郎
副会長:岡崎久彦 加瀬英明 黄文雄 田久保忠衛 中西輝政

アジア・太平洋地域のパワーバランスを大きく変える要因の1つとして台湾の今後の行方が挙げられる。中国の急激な軍備増強により中台間の軍事バランスが中国に有利に傾きつつあることに加えて、対中融和政策を掲げる馬英九政権の2期目においては、台湾の対中経済依存度の高まりを利用した中国の統一攻勢がさらに強まる可能性が高い。

今年1月14日台湾の総統選挙において台湾の人々が親中派の馬英九総統に政権を委ねた最大の理由の1つとして、中国による併呑は望まないものの、中国の軍事力が急速に増強された結果、台湾有事の際に米軍に対して「接近阻止・領域拒否」が可能な能力を備えるに至ったことから、米国の台湾防衛に対する不安感が高まり、それが国民の馬政権の対中融和路線を受け入れる結果に繋がったことが考えられる。

しかし、選挙の結果に対するコメントを見る限り、日米両国政府は、いずれも台湾に対中関係の安定だけを望んでいるとしか考えられず、今後、日米両国がより強い台湾との連帯の姿勢を示さない限り、中国の強い影響力の下に置かれた台湾は、やがて中国に呑みこまれる可能性が高い。

このような問題意識を出発点として、日本李登輝友の会では昨年8月7日、「日米台の安全保障等に関する勉強会」を発足させ研究を続けてきたが、3月3日の第5回勉強会において策定された本政策提言はその後、常任役員会の審議を経て決定し、理事会諮問及び総会承認を経て確定された。

この政策提言は、野田佳彦内閣総理大臣をはじめ衆議院議長と参議院議長、関係大臣に提出されると共に日本李登輝友の会のホームページ上で公開される。

なお、これまでの勉強会には、川村純彦(座長)、石川公弘、梅原克彦、金田秀昭、小林正成、佐藤守、澤英武、濱口和久、藤井厳喜、三宅教雄、宗像隆幸、連根藤、柚原正教(事務局長)の各氏が参加し、勉強会の成果を取りまとめた論考については、金田秀昭、梅原克彦の両氏に執筆いただいた。(座長・川村純彦)

*別添資料

1 論考:金田秀昭「中国の覇権的な海洋進出とわが国の対応」

2 論考:梅原克彦「我が国と台湾の経済協力」


政策提言1:「集団的自衛権に関する現行憲法解釈を修正せよ」

台湾が中国の支配下に置かれることは、東シナ海、南シナ海及び西太平洋、即ち日本周辺海域が中国の影響下に入ることを意味し、我が国も深刻な安全保障上の危機に直面することとなろう。我が国にとっても悪夢である。

今や日本は、座して台湾が中国に併呑されるのを見守るか、台湾との連携を推進して中国の外洋進出を牽制するかの岐路に直面しており、日米両国は同盟関係をさらに強化すると共に、価値観を共有する台湾の戦略的重要性を再認識して新しい対中戦略を策定し、日米同盟と台湾の協力関係を更に深化させるべき時期に来ている。

今年1月発表された米国の「新国防戦略」では、沖縄、グアム、オーストラリアなどに即応性の高い兵力を分散配備することで中国に対する抑止力を図る考えである。しかし、この戦略では中国による南西諸島に対する侵略や東シナ海の安全に対する脅威の増大といった事態に即応すべき米軍兵力が減少する事態が生ずることは必至であり、日米両国は、そのような事態にあっても即応能力を低下させないという明確なメッセージを発信するが必要である。

そのためには、まず日本が周辺地域の安全保障態勢に主体性を発揮することが求められる。

いま将に、自国の安全とアジア太平洋地域の平和と安定にとって日米同盟の強化が最重要課題となっており、そのためには実効性のある防衛力の整備及び所要の法的整備に加えて、日米の同盟関係を対等なものとすることが不可欠である。

「集団的自衛権は保持しているが行使できない」という現行の憲法解釈が、日米同盟の緊密化を阻害し、その実効性を強化する上で大きな足かせとなってきたことは否定できない事実である。

この問題を早急に解決し、国家としての強い決意を内外に示す上で最も効果的な方策は、集団的自衛権の行使に関する政府の現行憲法解釈を修正することである。

憲法改正を待たずとも、解釈の修正によって集団的自衛権の行使を可能とすることの方が、要する時間とエネルギーの両面から見てもより現実的であり、かつ、実際の作戦実施においても共同対処能力を飛躍的に向上させることによって抑止力を更に向上させることが期待できる。

ここに集団的自衛権に関する現行憲法解釈の修正を提言する。

政策提言2:「台湾との自由貿易協定(FTA)を早期に締結せよ」

日本と台湾とは、その緊密な貿易、経済関係の緊密さを考えれば、二国間の自由貿易協定(FTA)を締結するに最もふさわしい間柄である。もとより、日台両国は、世界貿易機関(WTO)の正式メンバーであることから、WTO上のルールに則った例外的な措置である二国間のFTAを締結することには、国際法上の問題もない。加えて、台湾側の官民双方とも、日本とのFTAの締結についての熱意を持っていることは周知のとおりである。

しかしながら、日台両国間においては、2002年に民間ベースの共同研究が採択されて以降、ほとんど進展がないのが現状である。これは、ひとえに、歴代の日本の政権、そしてそれを後押しすべき日本の経済界が、日台FTAの締結について、「北京」の顔色を窺い、「北京」の反対に気兼ねするという、悪しき弊害が今日に至るまで続いているからに他ならない。

アジア太平洋地域における各種の地域経済統合の動きが加速している現在、日本としても外交、通商政策上の有力なカードとなり得る日台FTAについて、東アジア地域の安全保障をはじめとする政治的な要因を十分考慮に入れつつ、思い切って早期に締結すべきことをここに提言する。


日本李登輝友の会「政策提言」資料
論考:「中国の覇権的な海洋進出とわが国の対応」 岡崎研究所 理事 金田 秀昭

中国(中華人民共和国)の将来動向は、色々な意味で、地域や国際社会の重要な関心事となっている。取り分け、中国の海洋を巡る覇権的行動が及ぼす地域安全保障への懸念が増大している。

1978年に「社会主義市場経済」のメカニズムを導入して改革・開放路線をとって以降、中国は、政治的、経済的に、地域大国として成長し続けている。他方、軍事面では、核兵器の近代化、各種弾道・巡航ミサイルや海空軍力の急速な近代化・増勢、宇宙やサイバーの強化を進めており、また近年は東シナ海、南シナ海、西太平洋などの海域で覇権的な行動をとるようになってきた。こういった中国の海洋における覇権的行動は、日本や台湾を含む北東アジア、東南アジア及び南アジア地域の諸国との摩擦を生じ、時としてホットな状況を生起させるなど、地域や国際社会の警戒心を呼び起こしている。こういった中国の動向に対し、海洋国家日本は如何に対応すべきであろうか。

1.中国の覇権的な海洋侵出

1970年代に南シナ海で始まった中国の海洋侵出は、80年代から東シナ海や日本の領域周辺、更には西太平洋の日本の排他的経済水域(EEZ:Economic Exclusive Zone)で、その勢いを徐々に拡大していくようになった。

先ずは東シナ海での海底資源の開発のため、日中中間線西側海域の資源探査のためのボーリングから始め、90年代には平湖ガス田、2000年以降は、中間線近傍の春暁(日本名:白樺)などのガス田を建設するに至っている。一方、尖閣諸島を巡る係争に関連しては、1971年以降、現在に至るまで中国の軍艦、公船、漁船、民間団体などによるわが国主権への挑発行為が頻発している。10年には、中国漁船が領海で取り締まり中の日本の巡視船に故意に衝突するという事態が発生した。

一方、中国海軍の水上部隊(潜水艦を伴う場合もある)による日本周辺海域への侵出は、90年代から東シナ海西方で編隊航行などが確認されていたが、2000年の情報収集艦による日本周航を皮切りに、01年以降は日本のEEZ内となる小笠原諸島周辺、硫黄島から南西諸島に掛けての西太平洋海域、更にはグアム島周辺海域などで、対潜作戦用と見られる海洋調査が盛んに行われ、04年には漢級原潜による不法な潜航領海侵入事案が、06年には宋級潜水艦による米空母近傍浮上事案が沖縄周辺海域で生起した。

近年は多種、多数の水上部隊による演習・訓練を盛んに行うようになった。08年に4隻の駆逐艦部隊が日本海から侵入して日本を周航して以降、08年に更に1回(4隻)、09年に1回(5隻)、10年に3回(6隻・10隻・2隻)、11年に3回(11隻・6隻・5隻)、12年では現在まで1回(4隻)、いずれもわが国の南西諸島や台湾近海を通航するなどして、沖ノ鳥島周辺を含む西太平洋やフィリピン海に侵出し、各種洋上訓練を行っていることが確認されている。また11年には水上艦2隻が対馬海峡を通って日本海で行動した。

このように中国海軍は、沿岸から近海、そして外洋(遠海)へとその行動範囲を逐次拡大し、遂には西太平洋などで定常的に外洋訓練を繰り返し行うようになった。これには、国内外に向けた外洋での行動能力や総合戦闘力の誇示、あるいはEEZ基点を巡って日中の争点(岩か島か)となっている沖ノ鳥島周辺での政治的な示威行動などの意味があると指摘できよう。より軍事的には、米国や日本の対応を研究し、データの蓄積と分析、彼我の強・弱点の把握、教訓を取り込み、今後の戦略・戦術構築に反映させる意図もあると考えられる。

2.中国の海洋戦略

80年代に、鄧小平の信任を受けた海軍司令員の劉華清は、台湾武力統一に加えて自国防衛及び天然資源確保のため、日本列島、南西諸島、台湾、フィリピン、ボルネオを結ぶ「第1列島防衛線」を絶対海上防衛線とする「近海防御」戦略を策定する。この防衛線内には、中国の「核心的利益」である台湾のみならず、わが国の尖閣諸島を含む東シナ海、ASEAN諸国が領有権を主張する南シナ海をも包摂する。中国は自国防衛上の絶対防衛圏として設定した「第1列島防衛線」と中国大陸南岸線で囲まれる南シナ海を「聖域」化する一方、東シナ海の「制域」化に乗り出し、更に戦力の拡充と外洋行動能力の向上に伴い、中国の前程防衛圏(海防辺彊)を東方に拡大して、千島列島西部、小笠原諸島、マリアナ諸島(グアム)からニューギニア島に至る概ね東経150度の「第2列島防衛線」の内側海域について、戦略的な「緩衝帯」化を目指し始めた。この「緩衝帯」には、我が国の太平洋島嶼やEEZ、重要なシーレーン(軍事・交易)が、ほぼすっぽりと入る。

中国海軍はこの「緩衝帯」を、究極的には海自の能力を凌駕し、西太平洋での覇権を争う米海軍の行動を抑制し、台湾問題などが生起した場合は、海自や米海軍来援部隊の前程阻止を図る海域と位置付けている。そして「近海防御」戦略を完整するため、この海域で活動可能な戦略原潜、攻撃潜水艦を中心に、大型の水上戦闘艦、空中給油可能な基地航空機、対艦弾道・巡航ミサイルなどの増勢を進め、いわゆる近接阻止・地域拒否(A2/AD)構想の構築を目指している。近年は、米空母を主目標とする対艦弾道ミサイルや、初の航空母艦の就役も近いと見られている。それに連れて中国海軍の戦略は、従来の「近海防御」の概念を超えて、2007年、胡錦濤主席による「遠海防衛」の提起に至るようになった。

3.中国の軍事力増強

中国の軍事力近代化においては、取り分け、「核心的利益」である台湾問題への対処、具体的には台湾の独立および外国軍隊による台湾の支援を阻止する能力の向上が、最優先の課題として念頭に置かれているが、近年は台湾問題への対処を遥かに超えたレベルの任務遂行を可能とする能力の獲得に鋭意取り組んでいる。

2010年には、75隻の近代的な水上艦、戦略原潜を含む60隻の潜水艦などを有し、台湾海軍どころか海上自衛隊をも上回る陣容を整えるに至った。また従来から専門家の間で指摘のあった中国海軍の弱点とされる後方支援能力の改善・拡充にも注力しており、急ピッチで増強中の水陸両用艦の整備と併せ、台湾本島のみならず、尖閣諸島や南西諸島など、わが国の南西方面の離島への攻略能力も整えようとしている。

中国は、軍事力近代化の長期的な計画として、国防及び軍近代化の3段階発展戦略を示し、「2010年までに基礎を確立し、2020年までに機械化を基本的に実現させ、情報化建設において重大な進展を成し遂げ、21世紀中葉には、目標を基本的に実現する」との目標を掲げている。海軍は人民解放軍の戦略軍種として位置付けられ、近海での総合作戦能力、戦略抑止・反撃能力を向上させ、更に遠海での国際協力及び非伝統的安全保障分野の脅威対応能力を発展させることが求められている。

これらから推定すれば、中国は軍事力近代化を鋭意継続する中でも、海上戦力の増強に重点を置き、戦略原潜や攻撃型潜水艦(原潜及び通常型)、航空母艦を基幹とする機動部隊を中心として、各種の近代化戦闘艦艇、支援艦種に至るまでの総合的な戦力向上を図っていくものと見積もられる。このまま行けば、米国防予算の長期削減とも相俟って、2020年には、「米海軍を上回る大海軍」(ラムズフェルド元米国防長官)を擁するのは確実とさえ見積もられているのである。これが実現するか否かはともかく、中国が今後、増強する海軍力を背景に、益々、海洋における覇権を強く追求していくことは間違いないであろう。

中でも、空母艦隊の完成による戦力投射能力の増強は、地域の軍事バランス上危険な水準に達し、中国政治指導者を軍事力行使に駆り立てる危険性を伴っている。またそれ以前に、漢級原潜の潜航領海侵犯事案でも見られたように、軍部(人民解放軍)の能力誇示の冒険的意欲を、軍務経験のない胡総書記や温首相、習近平を始めとする後継者などの政治指導者が統制できない場面が出てきているのも危険な兆候である。

4.周辺海域防衛と日米同盟

わが国周辺海域やシーレーンの安全確保が阻害されれば、国際経済のみならず、地域や沿岸国家の安全保障に大きな悪影響を与える。特に日本にとって、海洋の自由な利用は「生存」と「繁栄」をもたらす基本的な要素であり、シーレーンの安全確保は致命的に重要である。しかし、シーレーンは広域にわたるものであり、日本一国だけで安全を確保することは出来ない。

日本は、戦後一貫して強力な海洋防衛コミットメントを提供する米国との連携(海洋防衛同盟)を重視し、維持してきた。国際安全保障環境が大きく変わっていく中で、長期的に見て、国際社会での「指導者としての地位の岐路」にある米国と「国家としての盛衰の岐路」にある日本にとって、海洋防衛同盟の維持は緊要であり、両国共にその継続を望んでいる。

日米は共に長所と短所を持つが、両国の関係においては、グローバル・パワーとしての米国と、インフルーエンシャル・パワーとしての日本が「2人3脚」の補完関係を持つことが重要である。この関係が維持されることにより、日米同盟は、米国と日本の双方にとって好ましいことであるのみならず、自由民主主義を基調とする国際システムの安定的な維持、発展という意味において、台湾を含む地域社会や国際社会に対しても、好ましい結果をもたらすキーファクターであり続けよう。

より直截に安全保障の面からは、中国による戦略的な「緩衝帯」化の意図が明らかとなってきた我が国の領域やEEZ、台湾やシーレーンの防衛を、如何にして保全するかが問題となる。この海域の地図を見れば、日本列島、南西諸島、グアム島を結んだ三角地帯と中国の戦略的な「緩衝帯」が、ほぼ一致していることが分かる。在沖縄海兵隊のグアムなどへの移転を契機として、この三角地帯や東シナ海で、米軍や自衛隊が共同で航空機や艦船の運用を活発に行い、制海能力を顕示することが出来れば、中国の野望を挫くことも可能となろう。即ちこの三角地帯は、中国の戦略的な「緩衝帯」を脆弱化するための「戦略デルタ海域」の意味を持つ。尤もこのためには、日本自身が原子力推進の攻撃潜水艦や戦術航空機を搭載した航空母艦を運用するなど、海空兵力の充実を図ることも必要となると考えなければならない。

5.死活的に重要な台湾の防衛

日米にとって台湾の戦略的重要性は論を待たない。上述した戦略デルタ海域の西端となる南西諸島は、台湾本島と接している。潜水艦を含む中国海軍部隊が第1列島防衛線から西太平洋方面に侵出する際には台湾近海を通過する。台湾が中国の支配下になれば、これがフリーパスとなる。日米台3カ国は、「戦略デルタ海域」の重要性に関する認識を改めて共有し、より踏み込んだ安全保障・防衛協力関係を構築して、A2/AD構想の構築を目指す中国の企図を阻止すべきである。

この点に関し日米同盟には一定の進展がある。2011年6月にワシントンで行われた日米安全保障協議会(2+2)での共同発表においては、中国に対し、国際的な行動規範の遵守を促し、軍事力の近代化や活動についての開放性や透明性を高める措置を強化する方針を示す一方、中国の海洋侵出を念頭に、航行自由の原則の維持、海上交通の安全や海洋の安全保障、更に日米豪防衛協力の強化、日米印対話の促進、日米ASEAN安全保障協力の強化などが明記された。日米同盟は、民主党が政権を掌握して以降、普天間移設などで停滞している部分もあるが、深化している部分もあるのだ。しかし台湾防衛問題は不明確にされたままだ。

中台紛争が現実のものとなった場合、米国は参戦する。日本は周辺事態法を発動して米軍を支援するであろう。戦場が日本の領域に近接していることから、政府が武力攻撃事態と認定すれば、個別的自衛権により防衛出動を発動して対処することとなろう。しかし参戦中の米軍や台湾軍に対する軍事的支援が必要となった場合はどうするのか。

6.集団的自衛権の行使

日本政府は「権利は保有しているが行使できない」とする憲法解釈由来の神学論争から脱して、集団的自衛権の問題に現実的に向き合うべきである。そして同盟国である米国は当然として、必要な場合に、台湾への「集団的自衛権の行使」を可能とする条件を明確化し、更に「武力行使の一体化」といった派生する問題も是正するべきである。

そもそも国連憲章に基づく「集団的自衛権」は、自国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が「(その密接な関係ゆえに)客観的に見て自国に対する攻撃に等しく、現実にその危険が明白であ(り、その攻撃が自国に対するものと認められ)る場合に」反撃する権利のこと」であり、「被攻撃国との密接性」および「自国防衛との相関性」の2つを要件とするというのが国際的に一般的となっている解釈である。

しかし日本政府の立場は、「憲法第9条の下において許容されている自衛権の行使は、わが国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものであると解しており、集団的自衛権を行使することは、その範囲を超えるものであって、憲法上許されない」として、個別的自衛権の行使は許されるが、集団的自衛権の行使は容認していない。即ち日本政府は、上記二要件に加え、憲法解釈に由来するとする「自衛行為の限界性」を要件として加え、結果として日本国憲法の認めるところでないとの立場をとってきた。しかし国際的な解釈からすれば、「自衛行為の限界性」は、集団的自衛権行使の要件としてではなく、集団的自衛権を実際に行使する際、個別的自衛権の行使の際と同様に、自衛のための反撃行為の程度が過剰であるか否かを忖度するものであって、集団的自衛権行使の要件となるべき性質のものではないことは明らかである。

一方、日米安保条約(第5条)では、「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め」、「自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動する」としている。即ち、米国が日本の施政権下にある領域における日本への攻撃や、日本が日本の施政権下にある領域における米国への攻撃に際し、「自国の平和及び安全を危うくするものであることを認める」ことによって、日米による「共通の危険に対処するような共同行動」を執ると規定されており、明らかに、日本領域における両国の自衛のための集団的な共同防衛行動を容認しているのである。

更に、この条文解釈を敷衍すれば、現代戦の様相からして「日本国の施政の下には無いが、隣接した近傍の地域における米国に対する武力攻撃」に際しても、その態様から「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃とみなすことが論理的に可能」であれば、これを「自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め」、攻撃を受けている米国(日本)に対し、日本(米国)が集団的自衛権を行使することも可能となり得るのである。

日米同盟に関して言えば以上の通りであるが、同盟国で無い台湾に対して集団的自衛権が行使される要件を満たすか否かは、議論すらされていない。わが国政府は、台湾との国交正常化を図る一方、安全保障基本法の制定や憲法改正を視野に入れつつ、速やかに集団的自衛権を含む国家の安全保障に関わる基本問題に関する議論を開始し、国内外に宣明すべきである。

他方、台湾自身の努力として期待するのは、国家としての周辺海域やシーレーンの防衛能力向上の取組みである。私見ではあるが、台湾として、先ずは米国から導入中の強化されたC4ISR機能を有する海空を主体とする近代的装備の実際的運用に全軍が速やかに習熟して、「総合的な(Comprehensive)制海・制空能力」という近代戦遂行能力を獲得するための努力に国家の総意として邁進することが望まれる。その上で将来に向け、戦略的対潜戦遂行、広域情報収集、弾道・巡航ミサイル防衛、洋上防空などの能力の保有や維持向上に鋭意努力していく必要があると考える。


論考:「我が国と台湾の経済協力」日本李登輝友の会 常務理事 梅原 克彦

1990年代以降、国際経済環境の変化により地域統合の動きが加速してきた結果として、自由貿易協定(FTA)/経済連携協定(EPA)の締結数が年々増加している。現在まで、世界貿易機関(WTO)に通報されている地域貿易協定の数は、500件近くに上っている。

FTAとは、国際経済ルール上、GATT(関税及び貿易に関する一般協定)/WTO(世界貿易機関)体制の例外として位置付けられるものである。すなわち、GATTにおいて、「妥当な期間」内に、「構成地域の原産の産品の構成地域間における実質上すべての貿易について」、関税等を廃止することを条件として、一部のGATT締約国間で特恵的な自由貿易協定を締結することが認められている(GATT第24条)。

また、EPAは、関税の撤廃など通商上の障壁を除去するだけでなく、締約国の間での経済取引を円滑化するために、様々な経済領域で連携を強化し、協力を促進することなどをも含めた協定である。すなわちEPAは、FTAでは通常カバーされていない分野にまで、協定の範囲を広めるものである。

我が国は、1990年代後半までは、基本的にWTOの下で、すなわち多国間の枠組みの下での貿易・投資の自由化・円滑化に取り組んできたが、2000年代に入り、暫時、二国間自由貿易協定を推進する路線に政策的な変更が行われた。2002年1月には、小泉純一郎首相(当時)とシンガポールのゴー・チョク・トン首相(当時)との間で日本としては初のFTA/EPAである「日本・シンガポールEPA」が調印され、同年11月に発効した。これを皮切りに、これまで、メキシコ、マレーシア、チリ、タイ、インドネシア、ブルネイ、ASEAN、フィリピン、スイス、ベトナム、インド、ペルーの12か国、1地域とEPAを締結済である。また、現在数か国と交渉中である。

このような全体の流れの中で、我が国と台湾との間のFTAについては、10年以上前から、関係者により様々な取り組みがなされて来てはいるものの、依然として大きな進展がないまま、今日に至っている。

その経緯を振り返ってみると、まず、2001年10月、上海におけるAPEC(アジア太平洋協力)閣僚会議の際、我が国の平沼赳夫経済産業大臣と台湾の林義夫経済部長との会談において、「日台FTA」について民間レベルの対話と研究を開始することが合意された。その結果、「東亜経済人会議」(事務局は日本経団連と台湾工商協進会)が中心となって実務的な検討が行われ、2002年末には「日台FTA民間研究中間報告」が採択されるに至った。このように、我が国が「FTA推進路線」に舵を切った比較的当初段階において、「日台FTA」の締結に向けても一定の前進が見られたのである。しかしながら、それから9年後の2011年9月に、交流協会と亜東関係協会との間で「日台投資協定」が合意されるに至るまで、日台両国の間における貿易、投資関連の協定については、ほとんど進展がなかったと言わざるを得ない。

日本と台湾とは、その緊密な貿易、経済関係の緊密さを考えれば、二国間のFTAを締結するに最もふさわしい間柄であることは論を俟たない。日台両国は、WTOの正式メンバーとして、さらには、APEC(アジア太平洋協力)の正式メンバーとして、ともに世界の自由貿易体制の重要な構成メンバーであるとともに、自由貿易にとって最も重要な基盤であるところの、自由で開放的な経済体制、民主主義的な政治体制さらには言論、報道の自由、人権の尊重、法治主義といった、自由主義世界における基本的な価値観を共有しているからである。このことは、日本を含め東アジア地域よりもかなり以前から自由貿易協定や地域経済統合について具体的な成果を挙げてきた、北米自由貿易協定(NAFTA)や欧州連合(EU)の事例をみれば明らかであろう。前述したように、台湾も正式メンバーであるWTOのルールに則った「例外的」な措置であるFTAを日本と台湾が締結すること自体、国際法上の問題も全くない。

さて、それでは、我が国と台湾との間のFTAが、10年近く前の時点で、「民間ベースの共同研究」という準備段階のものだったにせよ、一定の具体的作業の進展が見られていたにもかかわらず、その後長らく停滞したままなのは何故か。

それは、一言で言うならば、その後の歴代の日本の政権が、日本と台湾の間の「二国間」のFTA/EPAの締結について、「北京」の反対に気兼ねするという「政治的理由」によるものであると断言せざるを得ない。これは誠に遺憾なことである。

もちろん、小泉政権以後の政権のうち、例えば安倍政権、麻生政権があのような「短命政権」とならなければ、安倍、麻生両元首相の外交・安全保障についての基本的スタンスの下で、日本政府が「腰を据えた」対台湾外交を展開することによって、日台EPAについてより具体的な進展があり得たという可能性は否定できない。しかしながら、小泉首相以降、歴代の現職首相が誰一人として「靖国神社参拝」を行っていないことが如実に示すように、この10年近くの期間、我が国の対アジア外交における、中国に対する「気兼ね」という悪しき要素が、より色濃くなったという実態と無縁ではなかろう。

外務省OBで元交流協会台北事務所代表の池田維氏が、いみじくも、この点について語っている。池田氏によれば、2003年ないし2004年頃の出来事として「経団連の責任者が北京で温家宝首相に会って、台湾とFTAを検討していると言ったとき、逆に「そういうことをすれば、中国に進出している日本企業にとってどういう影響があると思いますか」と質問されたことがあり、それ以来、日本はトーンダウンしてしまった」(当会機関誌「日台共栄」第26号(2010年5月発行)掲載のインタビューでの発言)とのことである。

最近でも、東日本大震災の一周年追悼式典に台湾代表として出席した台北経済文化代表処の羅坤燦副代表を、日本政府が指名献花から外すという非礼極まりない愚挙を行っている。

かくの如き、常に北京の顔色を窺いながらの外交姿勢を直ちに改めるべきは言うまでもない。

加えて、日本が台湾とのFTAを締結することは、今後、好むと好まざるとに関わらず、アジア・太平洋地域における現在の「地域経済統合」の動き、とりわけ、二国間のFTA,EPA、多国間のEPAであるTPP(環太平洋経済連携協定)、さらにはAPECワイドのFTA/EPAに向けての動きが加速している中、日本として外交・通商政策上の有力な「カード」としても十分意義を持つものであると考えられる。換言するならば、TPPをはじめとするアジア太平洋地域内における経済統合の流れが加速している今こそが、日台FTA締結の絶好のチャンスとも言えよう。

台湾側においても、先の総統選挙の結果、馬英九政権が継続することとなった。一昨年のECFA(経済協力枠組み協定)についての中台間の実質合意を受けて、現在、中台間では「投資協定」の締結交渉が大詰めに差し掛かっている。その中で、馬英九政権としても、日本とのFTA締結に積極的な姿勢を取り続けていることは周知の通りである。台湾の経済界、民間企業の関係者の多くが、日台FTAの締結についての熱意を持ち続けていることに、日本としても誠意をもって対応すべきであることは言うまでもない。

我々はここに、我が国が、いかなる政権の下での外交であろうと、経済的側面から見て、明らかに日本の国益に資するであろう日台間のFTAの締結について、東アジア地域の安全保障をはじめとする政治的な要因を十分考慮に入れつつ、思い切った推進をすべきであるとの提言を行うものである。