李登輝総統は5月2日、民間団体が立法院で開催した憲法改正シンポジウムに出席。朱立倫・国民党主席の訪中に関する質問を踏まえ、これまで公の場で何度も「存在しない」と否定してきた「92年コンセンサス」について改めて否定した。
総統として当時の全貌を把握し、国家統一委員会や国家安全会議を主宰する立場にあった李登輝総統自身が「そのような合意があったとは報告を受けておらず、当時、中国との会談に出席した海峡基金会の辜振甫や許恵祐に聞いても、合意はなかったと言っている。これは2000年以後、蘇起・元大陸委員会主任委員が、国民党に都合よく利用させるために作り上げたものだ」と重ねて否定、辜振甫氏(故人、元海峡基金会理事長)や黄昆輝氏(当時、総統府秘書長、現台湾団結連盟主席)もその存在を否定している。
しかしながら、朱立倫・国民党主席と習近平・中国国家主席との会談を伝える5月5日付の産経新聞には「92年コンセンサス」の用語解説として「中国と台湾が1992年、香港での協議で達した合意。『一つの中国』を認めつつ、解釈は各自に委ねるとの内容で、台湾側が『中国とは中華民国』と主張する余地を残している。台湾の野党、民主進歩党は受け入れを拒んでいる。」と記述。
この記述は、「92年コンセンサス」があたかも存在していることを前提としたもので、さらに「野党、民主進歩党は受け入れを拒んでいる」との記述も、まるで野党が理由もなく拒絶しているような印象を与え、読者を誤導するものである。
ちなみに朝日新聞は同じ会談を報じる記事において「朱氏はこれに対し、中台がともに一つの中国に属することを確認したとされる『92年コンセンサス(共通認識)』を守る立場を強調」と記述、その存在に疑義をもたせた報道となっている。
台湾においては、国民党陣営やメディアが「92年コンセンサス」の存在を前提とする発言や報道を繰り返し、当時の現場を掌握していた李登輝総統をはじめとする関係者が否定するという構図が繰り返されてきた。
そうしたことから、少なくとも現在の台湾社会において「92年コンセンサス」の存在の有無を断定するような報道は読者に誤解を与えるものであって、産経新聞には報道の改善を期待したい。