8月10日発売のPHP『Voice』9月号に掲載された李登輝総統のインタビュー記事「日台新連携の幕開け」の内容をめぐり、馬英九や国民党総統候補の洪秀柱らが批判を強めているなか、22日夜には台北市内の華様大飯店で恒例の李登輝基金会募金パーティーが開かれた。
8月20日、聯合晩報の報道によって端を発した「Voice」記事への批判は、李登輝総統が文中で触れた「70年前まで日本と台湾は『同じ国』だったのである。『同じ国』だったのだから、台湾が日本と戦った(抗日)という事実もない。私は陸軍に志願し、兄・李登欽は海軍に志願した。当時われわれ兄弟は、紛れもなく『日本人』として、祖国のために戦ったのである」の部分をはじめ「すでに台湾の慰安婦の問題は決着済みで、いまさら蒸し返すことは何もないということだ」、「一連の馬総統の動きは、日本に対する嫌がらせといってよい。終戦70周年を機に、中国の『抗日』と同調することで、中国側の歓心を買おうとしているのだろう」の部分に対するもの。
本会で確認したところ、聯合晩報は李登輝総統が『Voice』に「投書」したと誤報しているが、これは訪日直前の7月上旬、『Voice』の編集者が台北で李登輝総統にインタビューしたものをまとめたものと判明。日本語の読解力不足による誤解と思しき部分も見受けられた。
馬英九は20日、「台湾を売り国民を辱めた」として「中華民国の総統を12年も務めた李氏から日本に媚びるような意見が出たことに大変驚き心を痛めている、遺憾だ」と厳しく批判し、発言の撤回と謝罪を求めた。また、慰安婦についても「問題はまだ終わっていない。これ以上慰安婦を傷つけてほしくない」と反論した。
また、国民党の総統候補、洪秀柱は李登輝総統を「恩義を忘れ義理に背いた『老いぼれ』、長年にわたって中華民国の総統と副総統を務めた李氏からこのような話が出るのは、彼が日本人だからだ」と批判していた。
22日夜、李登輝総統は、李登輝基金会募金パーティー出席のため、一連の報道後初めて公の場に姿を見せた。報道が過熱していることもあり、入口には多数のテレビカメラが待ち構え一時騒然となった。
記者に囲まれた李登輝総統は「台湾が日本と戦った抗日などという事実はない。国民党は中国大陸で日本と戦ったかもしれないが、それを台湾に持ってきてどうするのだ。当時、台湾は日本の統治下だった」と改めて明言。「選挙に苦戦しているからといって、李登輝を批判する材料を見つけてきただけにすぎない。(謝罪を求める声に対して)私は正直に事実を言っているだけ。事実を言って謝罪しなければならないのなら、ホラ吹きはどうなる」などと反撃した。
パーティー前には、貴賓室で柯文哲・台北市長と会談。面談後にメディアから会談の内容を尋ねられた柯市長は「李登輝総統の『応援』に来た」と返答。当日午後、新竹で行われた民進党立法委員候補者の後援会設立大会に出席した柯市長の母、何瑞英さんはメディアに李総統の主張について問われると「李登輝総統の発言はまったくその通り。批判している人間は中国大陸から来た人間だから何も分からずに罵っているだけ」などと答えた。
また、募金パーティに途中から出席した民進党の総統候補、蔡英文主席はスピーチのなかで「あらゆる土地の、すべての人々それぞれが個人の歴史を有している。それぞれの経験してきた歴史をお互いに理解することによって、社会の団結は深まる。台湾は今後も対立を続けていくべきではない。指導者は対立ではなく和解を進めていかなくてはならない」などと李登輝総統を擁護し、李総統の主張を「包容」することを呼びかけた。
李登輝基金会のパーティには、研修のため訪台中の本会青年部(杉本拓朗部長)一行も招待を受け出席した。