20150911-04サンフランシスコ講和条約発効の9月8日、日本国内で毎月一度発行されている台湾情報紙の「台湾新聞」9月7日号(第221号)が本会に届きました。

紙面では、PHP『Voice』9月号に掲載された李登輝総統のインタビュー記事をめぐる騒動が報じられていましたが、この報道は、次のような記述で締めくくられています。

「李氏は日清戦争の際、旧制台北高校から京都帝国大学に進み、日本軍に従軍。1945年8月の日本の敗戦とそれに伴う台湾島の中華民国への返還を受け、日本軍が台湾を撤退した後の1946年春に台湾へ帰国。蒋経国の死後、その後継者として1988年より2000年まで台湾の総統を務め、台湾の民主化に大きく貢献した。」

李登輝総統が京都帝大へ進学したのは「日清戦争の際」といった事実誤認は言わずもがなですが、後段の「台湾島の中華民国への返還を受け」 との部分は、明らかに日本政府の台湾の領土的地位に対する立場と相容れないものです。

日本政府は池田勇人内閣時代の昭和39年2月29日、国会予算委員会質疑において池田総理自ら「中華民国への台湾返還」を明確に否定しています。

委員会質疑は、社会党の岡田春夫衆議院議員の質問に答えたもので、池田総理は次のように答弁しています。

サンフランシスコ講和条約の文面から法律的に解釈すれば、台湾は中華民国のものではございません。しかし、カイロ宣言、またそれを受けたボツダム宣言等から考えますと、日本は放棄いたしまして、帰属は連合国できまるべき問題でございますが、中華民国政府が現に台湾を支配しております。しこうして、これは各国もその支配を一応経過的のものと申しますか、いまの世界の現状からいって一応認めて施政権がありと解釈しております。

したがって、私は、台湾は中華民国のものなりと言ったのは施政権を持っておるということを意味したものでございます。もしそれ、あなたがカイロ宣言、ポツダム宣言等からいって、台湾が中華民国政府の領土であるとお考えになるのならば、それは私の本意ではございません。そういう解釈をされるのならば私は取り消しますが、私の真意はそうではないので、平和条約を守り、日華条約につきましては、施政権を持っておるということで中国のものなりと言っておるのでございます。」

20150911-01

20150911-02

それ以外にも、池田総理は「(前略)サンフランシスコ講和条約によりまして、台湾というものは日本が放棄した。日本が放棄したものを、いや、日本はどこにやろうなんということを言うほどわれわれはやぼな国民ではないのであります(後略)」や「はっきりしておるのであります。平和条約でわれわれは放棄したのであります。日本はこれにとやこう言う筋合いのものじゃございません(後略)」と再三再四、日本がサンフランシスコ講和条約で放棄した台湾の帰属について言う立場にないことを強調しています。※委員会議事録全文はこちら(台湾に関連する質疑は16ページから)

こうした日本政府の台湾の領土的見解に関する見解・立場は、現在も全く変わっていません。

例えば、平成17年(2005年)10月31日には、笠浩史衆議院議員が中学校使用の地図帳や外務省のホームページにおける台湾の取り扱いについて質問した質問主意書に対し、11月15日に小泉純一郎内閣総理大臣名で「小泉純一郎総理の衆議院議員笠浩史君提出中学校使用の地図帳及び外務省ホームページにおける台湾の取り扱いに関する質問に対する答弁書」が出されています。

笠議員による質問は「台湾の領土的地位に関する『日本国政府の公式見解』とはいかなるものか。その根拠についても明らかにして頂きたい」、「台湾に関して、中学校の地図帳における資料は(中略)台湾は中国の一部として表記されている。このような資料を使用する中学生は台湾を中国の一部であるとしか認識できないと思われるが、政府の見解はどうか」など9項目にわたって質問したものでした。

それに対して同年11月15日に出された答弁書には以下のように記載されています。
「我が国は、日本国との平和条約(昭和27年条約第5号)第2条に従い、台湾に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄しており、台湾の領土的な位置付けに関して独自の認定を行う立場にない。台湾に関する我が国政府の立場は、昭和47年の日中共同声明第三項にあるとおり、「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部である」との中華人民共和国政府の立場を十分理解し尊重するというものである。」
※笠議員の質問主意書
※政府による答弁書

また、平成24年(2012年)2月28日には、山谷えり子参議院議員が「日本が台湾を中国(中華民国)に返還した事実があるとすれば、その根拠となる条約等がなければならない。事実の有無を明らかにするとともに、事実がある場合は当該条約等を具体的に示されたい」など4項目について質問しています。

それに対し、同年3月9日、当時の野田佳彦内閣総理大臣名で出された政府答弁書には、台湾の領土的地位に関する日本政府の見解を次のように回答しています。
「我が国は、日本国との平和条約(昭和27年条約第5号)第2条に従い、台湾に対する全ての権利、権原及び請求権を放棄しており、台湾の領土的な位置付けに関して独自の認定を行う立場にない。」
※山谷議員の質問主意書
※政府による答弁書

以上のように、数度にわたる政府答弁書からも分かるとおり、日本政府の台湾の領土的地位に関する立場・見解は「サンフランシスコ平和条約で台湾を放棄した以上、台湾の領土的地位に関して独自の認定を行う立場にない」というものです。そのため、放棄された台湾の帰属先は「未定」ということとなり、「中華民国への返還」も中華人民共和国が主張する「台湾は中国の神聖不可分の領土の一部」という主張も、根拠を欠いた一方的な主張と言わざるを得ません。

ちなみに、上記の笠議員および山谷議員の質問主意書は本会関係者の協力によって作成されたものです。

本会では、日本においてまだまだ「台湾は中国に返還された」「台湾は中国の一部」という誤解がまかり通っている実情を鑑み、今後もその誤解を一掃するための活動を続けてまいります。