台湾の馬英九総統が11月7日にシンガポールで台湾の馬英九総統と中国の習近平・国家主席の会談を巡り、台湾では多くの批判が巻き起こっている。
台湾の報道では、馬総統の罷免や弾劾を呼びかける複数の団体が立法院前などで抗議活動を行い、総統府前の凱達格蘭大道に集まった団体メンバー5人がバイクで乗りつけて総統府に発煙弾や卵などを投げたため逮捕されたという。
野党の民進党主席で総統選候補者の蔡英文主席も「馬総統が退任を間近に控えて、個人としての政治的評価を得るため、台湾の将来に制限を設けることは国民が断じて許さない。馬総統には自分が責任を取れないことを約束する権利などない」と激しく批判したと報じられている。
日本では、産経新聞の人気コラム「産経抄」でもこの会談を取り上げ、総統選や立法委員選で「首脳会談の開催が国民党に有利に働くとは、とても思えない」と疑問を呈すると同時に、その「謎を解く鍵となりそう」なのが李登輝総統の「馬英九が何をしでかすかわからない」の一言だと指摘している。
これは、本会メールマガジン『日台共栄』でも紹介した櫻井よしこさんとの月刊「WiLL」12月号の特別対談「台湾が感動した安倍総理のひと言」に出てくる、李総統の警告のことだ。
選挙から総統就任式までの「空白の4ヵ月」とも「魔の4ヵ月」とも称される期間に、総統の馬氏がその権力を嵩(かさ)に、中国との和平協定を強引に結んでしまうなど、台湾の国益を損じるようなことを行うのではないかという危惧を指す。
政権末期のトップリーダーが突拍子もない行動に出て後に禍根を残すことはよくある。例えば、李明博大統領が政権末期に竹島に上陸して日韓関係に後々まで悪影響を残すなど、韓国大統領の政権末期によく現れている。
馬氏が和平協定を強引に結んでしまうなどの愚挙に出れば、台湾が「大変な負の遺産を背負い込むことになる」のは当然であり、すなわち日本にも多大な悪影響が及ぶ。日本の国益を損ないかねない事態になりかねないのだ。日本は対岸の火事と手を拱いているときではない。
台湾の選挙が気になる中国
【産経新聞:平成27年(2015年)11月5日「産経抄」】
中国は、台湾の選挙の行方がよほど気になるらしい。初の直接選挙となった1996年の総統選の前には、近海にミサイルを撃ち込んで、世界を驚かせた。
▼中国が独立派とみなす李登輝総統の実現を阻むために、有権者を恫喝(どうかつ)したものだ。結果は裏目に出て、李氏の圧勝に手を貸すことになる。その後も選挙のたびに、中国寄りの候補を後押しする、さまざまな工作を行ってきた。
▼中国の習近平国家主席と台湾の馬英九総統がシンガポールで7日、会談するという。来年1月に総統選を控える時期に、49年の分断以来という歴史的な会談を行う意味はどこにあるのだろう。
▼現在の選挙戦は、中国に距離を置く野党民進党の蔡英文候補が優位に進めている。対する与党国民党は、ごたごたが続いてきた。「中国との統一」発言を繰り返して、支持率低下を招いた前の候補に代わって、朱立倫党主席が担ぎ出されたばかりだ。有権者の間で中国への警戒感が強まるなか、首脳会談の開催が国民党に有利に働くとは、とても思えない。
▼「馬英九が何をしでかすかわからない」。李元総統のこの発言が、謎を解く鍵となりそうだ。月刊誌『WiLL』12月号の櫻井よしこさんとの対談で、出てきた。李氏が危惧するのは、次期総統が就任する前に、馬総統が「和平協定」を中国との間で強引に締結することである。それによって、台湾が「一つの中国」を認めてしまえば、後戻りができなくなる。
▼中国とすれば、統一への道筋さえつけてしまえば、もう総統選の結果に一喜一憂する必要がなくなる。馬総統が政治的遺産を残すために、そんな暴挙に出ないよう祈るばかりだ。李氏の心配が的中すれば、台湾は大変な負の遺産を背負い込むことになる。