現在、日本は国交のない台湾について「非政府間の実務関係」と位置づけている。そのため、特に経済分野の関係伸展を図ってきていた。近年、東日本大震災以降、それが著しい傾向を示している。
2011年9月には「日台民間投資取決め」を結び、投資企業の活動や資産は外貨規制を受けない無差別待遇にするなど投資環境を大きく改善した。実際にサービス業や飲食業、小売業が台湾に進出しやすくなり投資件数は確実に増えている。
11 月には、定期便運航をする航空会社数を制限せず、羽田と成田を除く日本の各空港から台湾の各空港への往復便についても便数を制限しないなど、相互の航空自由化(オープンスカイ)について取り決めた「日台航空協議」修正文書(オープンスカイ協定)に調印している。
また2012年4月には、知的財産の特許出願に関して「日台特許審査ハイウェイに関する覚書」を締結し、簡易な手続で早期審査が受けられるような枠組みを作った。これによって「現在通常の案件では審査着手に40ヶ月程度待たされるのに対し、これまでの加速審査制度での応答期間よりも短い1.1ヶ月という短期間で結果を得ることが可能」になっている。
この年の11月には、日台双方が認可した団体が検査を行った場合、輸出側の検査に基づく認証結果を輸入側も受け入れる制度である「電気製品の相互承認取決め」を、経済産業省の上田隆之・通商政策局長の立会いの下に署名した。
2013年11月には、3つの取決め(「日台電子商取引取決め」、「日台薬事規制協力取決め」、「日台航空機捜索救難協力取決め」)と2つの覚書(「日台特許等優先権書類電子的交換了解覚書」、「日台鉄道交流了解覚書」)について締結している。
これらの相互承認はFTAの一部であることから、将来の日台FTA締結に向けての積み上げ作業という位置づけだった。しかし、まだ大きな懸案事項が残っていた。それが「租税協定」だった。
下記の日経新聞の記事で伝えるように、現在、「日本企業の社員が台湾に出張した場合、91日以上滞在すると課税対象になって二重課税が生じ」たり、「日本企業の台湾子会社が配当を日本の親会社に送金する際、金額の20%を源泉徴収され」る状況で、台湾における技術力伸張と人材育成に障害となっていた。
そこで日台間ではこれまで、進出企業の税負担を軽減して双方の投資を促すため、二重課税回避問題などを解決すべく租税協定について話し合いが続けられてきた。日本経済新聞が伝えるところによれば「25、26両日に東京で開かれる『日台貿易経済会議』でトップ同士が覚書を交わし、早期に発効する見通しだ」という。
いよいよ日台の自由貿易協定(FTA)締結がまさに指呼の間に迫ってきた感を深くする、租税協定締結という嬉しいニュースだ。
日台、租税協定を締結へ 二重課税防ぎ投資促す
【日本経済新聞:2015年11月18日】
日本と台湾が二重課税などを防止し、ヒトの往来や投資を促進するための租税協定を結ぶことが18日分かった。現地子会社からの配当の送金に対する税の減免や、出張者への二重課税の解消などが柱となる。台湾としてはこの協定を契機に、将来は日本との実質的な自由貿易協定(FTA)の締結など包括的な経済連携につなげたい考えだ。
日本と台湾は正式な外交関係がないため、租税協定は双方の交流窓口機関が締結する。25~26日に東京で開く「日台貿易経済会議」でトップ同士が覚書を交わし、早期に発効する見通しだ。
台湾は英国やインドなど29カ国・地域と租税協定を結んでいる。今年8月には中国との協定締結も実現した。
租税協定を結んでいない場合、本来は減免される税金などが発生し、企業・個人の負担となる。例えば現在、日本企業の台湾子会社が配当を日本の親会社に送金する際、金額の20%を源泉徴収されているが、協定があればこれが減免される。台湾企業の日本子会社にも同じ仕組みが適用され、子会社の事業拡大がしやすくなる。
また、日本企業の社員が台湾に出張した場合、91日以上滞在すると課税対象になって二重課税が生じる。租税協定があれば182日までなら課税対象とみなされず長期出張などがしやすくなる。
台湾の経済部(経済省)によると、日本の2014年の対台湾投資額は前年比34%増の5億5千万ドル(約680億円)。ピークの06年は15億9千万ドルだったが製造業の進出減少で最近は低迷気味だ。台湾は主力のIT(情報技術)産業などが韓国や中国との競争にさらされている。租税協定で日本の先端産業などを誘致し、産業構造の高度化につなげる。
一方、台湾の14年の対日投資は前年比4倍の6億8千万ドル。12年の鴻海(ホンハイ)精密工業によるシャープの旧・堺工場への出資などで近年は伸びが著しい。
台湾の馬英九総統は08年の就任以降、対中融和政策を進める一方、日本との経済関係も重視してきた。11年には投資協定や航空自由化(オープンスカイ)協定も結んだ。