やはり、蔡英文候補の優位は動かない。1月16日の投開票まで1週間を切った台湾の総統選挙の終盤情勢について、「蔡氏、独走続く」(西日本新聞)、「蔡氏独走のまま最終盤」(産経新聞)、「朱立倫主席は台湾独立志向の最大野党・民進党の候補、蔡英文主席に大幅にリードされている」(日本経済新聞)など、蔡英文候補優位との見方を伝えている。

中でも毎日新聞は、蔡英文候補の動静を詳しく取り上げ「民進党による8年ぶりの政権奪還と、初の女性総統の誕生が濃厚な情勢となっている」と伝え、立法委員選挙に関しても、新北市1区で中堅の中国国民党候補を激しく追い上げる民進党の学生候補の躍進ぶりも報じている。下記にその記事を紹介したい。

選挙の最終盤では何が起こるか分からない。以前にも指摘したように、総統選の候補者が暗殺される可能性も捨てきれない。民主化の定着した台湾で起こって欲しくない事態だ。


初の女性総統濃厚 蔡氏、終盤も独走 16日投開票

【毎日新聞:2015年1月10日】

20160110-01

【毎日新聞HPより】先住民族パイワン族の血を引く蔡英文氏。道教の廟でパイワン族の冠をかぶると支持者から歓声が上がった=台湾屏東県で9日、鈴木玲子撮影

【屏東(台湾南部)鈴木玲子】16日投開票の台湾総統選まで残り1週間を切った。選挙戦終盤に入っても、独立志向の強い最大野党・民進党候補の蔡英文主席(59)が首位を独走。民進党による8年ぶりの政権奪還と、初の女性総統の誕生が濃厚な情勢となっている。民進党は、同時実施の立法院(国会)選でも躍進する勢いを見せている。

総統選には与党・国民党の朱立倫主席(54)と野党・親民党の宋楚瑜主席(73)も出馬しているが、最終盤の世論調査でも蔡氏が4割以上の支持を集め、朱氏に20ポイント近い大差。宋氏の支持率は10%台にとどまっている。

9日は、蔡氏が南部・高雄、朱氏は北部・台北とそれぞれの有力地盤で大規模集会を開いて支持を訴えた。

蔡氏はこの日、故郷である最南端・屏東県にある道教の廟(びょう)で当選を祈願。数百人の支持者を前に「故郷から出発し、台湾全土を照らす」と当選への意気込みをみなぎらせた。南部から台北へ北上しながら、投票前日まで各地で大集会を開く計画だ。

朱氏は、馬英九総統ら党有力者と共に台北市内を行進後に大集会を開いた。朱氏は「台湾の安定のため共に歩もう」と国民党政権の堅持を呼びかけた。

台湾では、馬政権の対中融和路線で中国にのみ込まれるとの不安感が広がり政権批判につながった。国民党はさらに総統選候補の途中交代などという混乱が支持者から批判を招いて苦戦してい
る。

最大の争点は対中政策だ。国民党の馬政権は「一つの中国」の原則を認めたとされる「1992年合意」を交流の基礎としてきた。昨年11月の中台首脳会談でも、習近平国家主席と馬総統が92年合意を確認した。だが民進党は党綱領で台湾独立を掲げ、合意の存在を認めていない。

朱氏は、蔡氏に92年合意を受け入れるのか態度をはっきりさせるよう迫る。

テレビ討論会などで蔡氏が中台関係について語る「現状維持」についても、朱氏は「現状が何を指すのか説明があいまいだ。中台関係が不安定化する」と訴える。だが、蔡氏は合意について「異なる意見がある」「唯一の選択肢ではない」とかわし、あいまい戦略を貫いている。

民進党の陳水扁政権(2000~08年)時代は中台関係が緊張し、経済低迷を招いた。経済界には蔡政権が誕生したら再び中台関係が悪化するのではとの不安が残っている。

◆立法院選も野党に勢い 与党地盤で若者健闘

総統選と同時に行われる立法院(国会、定数113)選でも、民進党は議席数を現有の40から大きく伸ばして単独過半数を狙う勢いだ。民進党は特に国民党の厚い地盤である北部に照準を合わせ猛攻をかけており、国民党のベテラン現職を民進党の若い新人が追い上げる姿が目立っている。

「台湾の新たな改革の始まりだ」。元日朝、民進党の総統候補である蔡英文主席は北部・桃園市の「国旗掲揚式」で意気込みを語った。2014年の市長選で大方の予想を覆して民進党候補が当選し、党の躍進を象徴する地だ。

国民党候補の朱立倫主席が市長を務める北部・新北市にも攻め込む。朱氏は14年の市長選で再選されたが、民進党候補に2万票差に詰め寄られ、国民党に衝撃が走った。

新北市で注目を集めるのが、国民党現職で4期目を目指す呉育昇氏(57)に民進党新人の大学院生、呂孫綾(ろそんりょう)氏(27)が挑む1区だ。

呂氏は、父が元新北市議で地元信用金庫の役員という強みもあるが、当初は現役の呉氏優勢と見られていた。だが、民進党と選挙協力を進める新政党「時代力量」の立候補予定者が出馬を断念したことで、野党系支持が呂氏に集中。呂氏は「クリーンな政治を実現する」と強調し、親しみやすさを武器に接戦に持ち込んでいる。

台湾最大の人口397万人を抱える新北市は若い新住民が多いうえ、総統候補の途中交代で国民党への批判が強いことが、呂氏には追い風となっている。

一方の呉氏は、馬英九総統の台北市長時代に市報道官を務めたベテラン政治家。国民党関係者は「呉氏でさえ激戦だとの観測は党内に驚きを与えた」と語る。

呉氏は元日、後援会が主催した伝統劇の公演で「学生に政治ができるのか。立法委員は、住民のために何ができるかが重要だ」と強調。交通インフラ整備など長年の活動実績を挙げて支持を訴えた。

立法院選は小選挙区比例代表並立制。現有議席は国民党64、民進党40、親民党3など。

比例代表では野党支持者の票が時代力量などに流れて民進党の単独過半数は難しいとの観測もあり、蔡氏は「我々が最も改革の力を持っている」と力説して「票の集中」を呼びかけている。