安倍晋三首相は1月18日午前の参議院予算委員会において、防衛大学校出身の自民党の宇都隆史(うと・たかし)議員による「台湾で初の女性の総統が誕生するため見解を伺いたい」との質問に対し「心から祝意を表明したい。今後、日本と台湾の協力、人的交流がさらに進んでいくことを期待している」と答弁した。NHKニュースから該当部分を下記に紹介したい。
これまでの安倍総理の台湾重視姿勢を改めて示した答弁だ。アメリカもまた1月18日、バーンズ前国務副長官が特使として台北市内の民進党本部を訪れて蔡英文主席と会談、米国政府を代表して祝意を伝えている。
この日米と対照的な姿勢を示したのが韓国の朴槿恵大統領だ。朝鮮日報は「特段の祝賀メッセージを送らないことが分かった」(1月18日付)と伝え、産経新聞は「北朝鮮の核実験以降、中韓関係にすきま風が吹く中、韓国としては中国とこれ以上、摩擦を起こしたくないのが本音。対中配慮との見方も少なくない」(1月18日付)と解説している。
中国もまた蔡英文氏の当選を苦々しく見ているようだ。共同通信の伝えるところによれば、環球時報は18日の社説で、蔡英文主席について「台湾の民意を道具にして中台関係を主導するのは非現実的で危険だ」と批判し、「蔡氏は中国13億人の民意を顧みなくて良いのか」と指摘したという。的外れというか、八つ当たり気味の社説で、よほど蔡英文氏の当選が気に入らないようだ。
日本はすでに岸田文雄・外務大臣が蔡英文候補が当選した16日夜、「当選に祝意を表するとともに、本件選挙が円滑に実施されたことは、台湾において民主主義が深く根付いていることを示すものとして評価します」とする異例の「談話」を発表している。こちらも下記にご紹介する。
菅義偉・官房長官もまた18日午前の記者会見で祝意を表し、「基本的価値観を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する重要なパートナー、大切な友人だ」と指摘し、「日台間の交流のさらなる進化を図っていきたい」と述べ、今後の日台交流の深化に意欲を示している。
安倍総理をはじめ官房長官、外務大臣の三者がそろい踏みした日本や、特使まで派遣したアメリカの積極的な姿勢の向こうに、民主主義を成熟させつつある台湾の豊かな未来が待っている。
首相 台湾の蔡氏に祝意「協力交流促進に期待」
【NHKニュース:2015年1月18日】
安倍総理大臣は参議院予算委員会の基本的質疑で、台湾の総統選挙で民進党の蔡英文氏が圧勝したことについて、「台湾の自由と民主主義の証しだ」として祝意を表明したうえで、台湾との間で協力や交流がさらに進むことに期待を示しました。
この中で、自民党の宇都前外務政務官は、台湾の総統選挙で民進党の蔡英文氏が圧勝したことについて、「わが国の安全保障にとって、地政学上、非常に重要な位置を占める台湾で、初の女性の総統が誕生するため見解を伺いたい」と質問しました。これに対し、安倍総理大臣は、「台湾は、日本の古くからの友人だ。自由な言論の上に選挙によってリーダーを決める総統選挙は、台湾の自由と民主主義の証しだと考える。改めて、蔡英文氏の勝利に心から祝意を表明したい。今後、日本と台湾の協力、人的交流がさらに進んで行くことを期待している」と述べました。(後略)
総統に当選した蔡英文氏は環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加に意欲を示している。これに対し、菅義偉(すが・よしひで)官房長官は1月18日、「地域の安定と繁栄に大きく寄与する」として、期待感とともに歓迎を表明した。
日本政府が蔡英文氏の総統当選を受け、これほど明確に台湾のTPP参加について発言したことは画期的と言っていいだろう。下記に、記者会見の動画と時事通信のニュースを紹介したい。
台湾TPP参加なら歓迎=菅官房長官
【時事通信:2015年1月18日】
菅義偉官房長官は18日午前の記者会見で、台湾総統選で当選した野党・民進党の蔡英文主席が環太平洋連携協定(TPP)加盟に意欲を示したことについて、「歓迎したい。台湾がTPPの高い水準を満たす用意をし、参加することになれば、地域の安定と繁栄に大きく寄与する。台湾と有意義な議論をしたい」と述べた。
1月16日に民進党の蔡英文候補が総統選挙で当選したことを受け、岸田文雄・外務大臣はその夜、「台湾総統選挙の結果について」と題する外務大臣談話を日本語と英語で発表した。
これまで日本の外務大臣が台湾の総統選挙の当選者に祝意を表する談話を発表したことはなく、異例のことだ。いかに安倍政権が台湾を重視しているかが分かるとともに、中国への牽制ともなっていることは疑いない。
いずれにしても画期的であり、この積極的な姿勢を高く表したい。外務省のホームページからその全文を下記に紹介したい。
台湾総統選挙の結果について(外務大臣談話)
1 本16日、台湾の総統選挙において蔡英文(さい・えいぶん)氏が選出されました。同氏の当選に祝意を表するとともに、本件選挙が円滑に実施されたことは、台湾において民主主義が深く根付いていることを示すものとして評価します。
2 台湾は我が国にとって、基本的な価値観を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する重要なパートナーであり、大切な友人です。政府としては、台湾との関係を非政府間の実務関係として維持していくとの立場を踏まえ、日台間の協力と交流の更なる深化を図っていく考えです。
3 台湾をめぐる問題については、当事者間の直接の対話により平和的に解決されること、また地域の平和と安定に寄与することを期待します。