27日付の台湾紙・自由時報が「蔡英文政権の情報外交は『李登輝モデル』を踏襲か?」と題する興味深い記事を掲載した。

香港で発行されている国際関係オピニオン誌『亜洲週刊』の報道を引用するかたちで、5月に発足する蔡英文政権の情報外交は、日本を基軸とし、台湾を日米同盟に組み込むことで中国を牽制しようとする「李登輝モデル」を踏襲する可能性が大きくなってきたというのだ。

下記に『亜洲週刊』(4月2日号)に掲載された「蔡英文の外交戦略 日本と手を組み中国を牽制?」と題された記事を紹介したい。


「蔡英文の外交戦略 日本と手を組み中国を牽制?」

台湾紙・自由時報も『亜洲週刊』の報道を引用するかたちで報道した

漏れ聞こえて来た謝長廷が駐日代表、邱義仁が亜東関係協会会長に内定との人事情報で注目されたのは、蔡英文・新総統が日本との関係を強化して中国を牽制する戦略なのではないかという憶測だ。

蔡英文政権の人事が着々と決まりつつあるが、最も注目されるのは蔡政権の両岸外交と外交戦略である。

特に馬英九政権の8年間では対日外交が全く重んじられなかったが、蔡英文は対日外交を、両岸関係や対米外交に影響を及ぼすカードになりうると考えている。

さらに蔡英文は李登輝が総統在任中に進めた「明徳専案」と呼ばれる対日・対米外交のための機密外交プロジェクトにも参加していた。

そこで蔡英文は当時の「李登輝モデル」を踏襲し、日本を基軸として、台湾を日米同盟に組み込むことで中国を牽制することを視野に、駐日代表などの人事を決めているのだ。

李登輝総統の時代、国家安全局の機密費を使い、日米台の三ヶ国による機密情報外交グループが設立された。

台湾は李登輝をはじめ国家安全会議や国家安全局の高官を主とし、米国は親台派のアーミテージ(元国務副長官)やウォルフォウィッツ(国防副長官)をはじめとするアジアに精通する高官、日本は内閣情報調査室長や統合幕僚長に加え元首相も含まれていた。台湾が資金を出資するかたちで定期的に日米台で会合を開き、日本側の戦略構想を軸に、台湾は日本の力を使って台湾を日米同盟に組み込みつつ支援する役割を担った。

日本の全体的な構想では、日米台によって中国を包囲する密接な関係を築き、それを基礎として日米安保条約に規定された「周辺事態法」を台湾にも適用するものだった。

この「明徳専案」は、1996年に発生した台湾海峡危機の際にも機能し、最大級の成果をおさめた。さらに台湾は日本を通じて対米情報外交を成功させたともいえる。後に李登輝は当時国家安全会議のメンバーだった蔡英文を加えたため、蔡英文自身も米国の対台湾政策の決定に影響を与えるカギが日本だったことを身をもって経験している。

総統当選後、蔡英文の外交布陣のなかで真っ先に漏れ出てきた重要なポストは駐日代表だった。日本に留学経験のある謝長廷・元行政院長を駐日代表に充て、国家安全会議の秘書長経験者で退任後は日本で研究生活を送った邱義仁を対日外交を担う亜東関係協会会長に据えるとの人事情報が伝わってきた。

この人事が事実であるならば、蔡政権の対日外交は対米外交と同レベルに引き上げられることを意味する。「憲法一中」を主張してきた民進党重鎮の謝長廷は、両岸関係においても重要な地位にあるが、蔡英文がその彼を両岸関係から外してまで対日外交のポストに据えたということは、明らかに謝長廷の対日経験を存分に発揮してもらうことにある。さらに邱義仁を亜東関係協会に据えてバックアップする役割を担わせれば、蔡政権の対日布陣はまだ確定の段階ではないとはいえ、最良の人選で望むことになる。

対日外交人事が確定すれば、今後の蔡政権の両岸および対米戦略は「手を握るか袂を分かつか」という戦略の枠組みになると断定できる。過去に「明徳専案」に参加したメンバーによれば、米国にとってアジアで最も重要な同盟国は日本であり、台湾が日本を通じて米国に働きかけた場合の効果は、台湾から米国に直接働きかけた場合をはるかに凌ぐものがあるという。

また、日本は現在武器輸出を解禁しており、何らかの要因で米国から台湾への武器購入が不可能な場合でも、日本から購入するという手っ取り早い方法が使えるようになる可能性もある。日台が緊密な外交関係を通じて軍事外交のチャンネルを再び開くことになるのか、蔡英文が対日外交にどれだけ力を注ぐかにかかっている。

【『亜洲週刊』2016年4月2日 第30卷 13期より。翻訳は本会台北事務所】