抗議書を片手で受け取ったと言ってはまた非難
沖ノ鳥島沖の排他的経済水域内で違法に操業していた台湾漁船「東聖吉16号」を日本の海上保安庁が拿捕したことに対し、台湾側が抗議を行っている事件に関連して、中華民国全国漁会の関係者や漁民たちが27日午前、台北市の交流協会台北事務所前で抗議活動を行った。
抗議中には生卵が飛び交うなど、暴力的な活動も行われ、警察に制止される場面があった。抗議活動には民進党の荘瑞雄・立法委員や国民党の林国正・副秘書長、張麗善・立法委員、黄昭順・立法委員らも応援に駆けつけた。
代表者が抗議書を受け渡す際、交流協会側は一名の事務官を派遣。荘立法委員は、抗議書手渡しの際、事務官が片手で受け取ったと批判。黄立法委員も、日本側の態度は横柄で、片手で受け取るや、謝罪の言葉もなく立ち去ったと非難するなど、お門違いの怒りを見せた。
聯合報の報道によれば、日本との外交交渉窓口となる亜東関係協会の蔡明耀・秘書長は、沈斯淳・駐日代表に対し、本日午後に交流協会の今井正・理事長と会見して交渉するよう指示。林永楽・外交部長も明日(29日)、交流協会台北事務所の沼田幹夫代表を呼び、台湾政府の強烈な不満と抗議を伝達するなどと述べている。
日本側は、岸田文雄外相が本日(28日)午前の記者会見で、馬英九総統による沖ノ鳥島(東京都小笠原村)を「岩礁」とする声明につき、交流協会台北事務所を通じ、27日の時点ですでに抗議していることを公表。「沖ノ鳥島は国連海洋法上、島としての地位が確立しており、台湾独自の主張は受け入れることができない」などと述べた。
【台湾国内の報道を本会台北事務所でまとめたものです】
馬英九・台湾総統が沖ノ鳥島を岩と主張し蔡英文・次期政権に負の遺産
4月24日、沖ノ鳥島周辺の排他的経済水域(EEZ)で違法操業していた台湾漁船を海上保安庁が拿捕(だほ)し、26日、乗組員らは600万円の担保金を支払って釈放された。
台湾の馬英九政権は25日午後、総統府で国家安全高層会議を開いた際、馬総統は「島の定義に当てはまるのか、それに基づく200カイリの排他的経済水域を主張できるのか、国際間で極めて大きな争議があると指摘」(4月26日付「台湾週報」)するに留まり、外交部も「日本が沖ノ鳥『島』から200海里の排他的経済水域を主張できるかどうかについては、国際社会でいまだ議論がある問題だとし、この立場はこれまでにも、日本側に何度も伝えている」(4月25日付「台湾国際放送」)という説明だった。
ところが、27日正午に招集した国家安全上層部会議では、馬氏の主張は一転して沖ノ鳥島を岩だと明言、「日本が島嶼と主張しているいわゆる『沖ノ鳥島』は『島』ではなく『岩礁』であり、三坪ほどの大きさは『人間の居住に適し、独自な経済的な生活を送れる』という島嶼の条件を満たしておらず、沿岸から200カイリの排他的経済水域、そして大陸棚の主張も認められない」(4月27日付「台湾国際放送」)と主張したという。これは、中国と韓国の主張と同じだ。 馬氏は、前日の26日に子飼いの張善政・行政院長に「絶対に岩で、島ではない。経済水域はない」と主張させ、それを踏まえるように27日の国家安全上層部会議を招集したようだ。
馬氏は総統を退任するまで「なにかやらかすだろう」というのが衆目の一致した見方だった。案の定、総統選挙のさなかの昨年11月7日には、突如、シンガポールで中国の習近平国家主席と会談し、「92年コンセンサス」の堅持を提案して、台湾に「一つの中国」という負の遺産を背負わせた。
3月29日には、蒋介石氏や蒋経国氏が崇拝するに値する人物であるかはさらなる議論が必要だと指摘する声を無視して、総統府3階の大ホールの名称を蒋経国に由来する「経国庁」と命名している。これも、台湾内部に向けた負の遺産と言える。
そして今度は、沖ノ鳥島を問題化し、蔡英文・次期政権に負の遺産を背負わせたと言えよう。蔡英文氏が日本重視策をとることを表明していることに対抗し、沖ノ鳥島を問題化することで日台離間策を狙ったとも言える。その一方で、中国と韓国にすり寄ったとも言え、総統退任後を考えての主張の転換だろう。
朝日新聞も「5月20日の退任を前に日本や対日重視を掲げる次期政権を牽制(けんせい)する狙いと見られる」と指摘している。下記にその記事を紹介したい。
【本会メールマガジン「日台共栄」:第2648号より】
台湾総統、沖ノ鳥島「岩」と主張 次期政権を牽制か
【朝日新聞:2016年4月28日】
台湾の馬英九総統は27日、安全保障担当の高官会議を開き、日本最南端の沖ノ鳥島について「島ではなく岩礁」とし、日本は排他的経済水域(EEZ)を設定できないと主張した。馬氏はこの海域で操業する台湾漁民の保護を指示。5月20日の退任を前に日本や対日重視を掲げる次期政権を牽制(けんせい)する狙いと見られる。
EEZには沿岸国に天然資源開発の権利があり、沿岸から200カイリ(約370キロ)内に設けられるが、岩には設定できない。沖ノ鳥島については中国や韓国が「岩」と主張。台湾の外交部は「(島か岩か)国際法上の地位について争いがある」としていたが、岩だとの明言は避けていた。
外交部は沖ノ鳥島周辺に日本がEEZを設定できるかどうかには議論があるとしつつ、2014年には日本の取り締まりによるトラブルを避けるためとして、この海域での操業を控えるよう漁民に働きかけていた。だが、この海域で操業した台湾漁船の船長が25日、海上保安庁に無許可操業の疑いで逮捕され、漁民らの間で反発が広がった。
船長は担保金を払って釈放されたが、張善政・行政院長(首相)は26日、「畳3枚分の大きさ。どうやったら島と言えるのか」などと言及。馬氏は会議で、公文書では「沖ノ鳥島」という言葉を使わずに「沖ノ鳥礁」と表記するよう指示した。海岸巡防署(海上保安庁に相当)などに漁民保護のための具体策立案も求めた。野党・民進党主席の蔡英文・次期総統の就任後も簡単に変更できないようにする思惑がありそうだ。
27日は、台北市にある日本の対台窓口機関、交流協会の事務所前で漁民らが与野党の立法委員(国会議員)らと日本への抗議活動を展開。建物に向かって生卵を投げる一幕もあった。