産経新聞「主張」 台湾新総統 政策の歪み是正評価する
【産経新聞:2016年7月4日「主張」】
台湾の蔡英文氏が総統に就任し、1カ月が過ぎた。2期8年にわたった中国国民党の馬英九前総統は、任期の後半になるほど中国への傾斜を強めて重要な政策での歪(ゆが)みが目立った。
蔡氏は早期に行き過ぎた中国傾斜の是正などに乗り出しており、その手腕を評価したい。
蔡氏はまず、中国との貿易自由化協定に抗議した「ひまわり学生運動」の参加者に対する馬政権の刑事告訴を撤回した。
「中国色が強すぎる」として不評だった学習指導要領も、就任翌日に廃止の方針を示した。
安全保障分野では、台湾海軍の艦艇を段階的に自主建造に切り替えるという。
台湾の主な軍備は米政府が「台湾関係法」に基づいて供与してきたが、武器売却への中国の外交圧力が強まる中、中台の軍事バランスは中国優位に傾いていた。
艦艇の自主建造は、台湾海峡の「現状維持」のためにも必要な措置である。
馬氏は任期切れ直前になって、日本最南端の沖ノ鳥島周辺でわが国の排他的経済水域(EEZ)を否定し、台湾の巡視船などを同島周辺に展開した。
蔡氏は直ちに船艇を撤収させ、海洋、漁業問題を協議する「日台海洋協力対話」が7月に始まる。「力による現状の変更」は許されない。「法の支配」こそ日台共通の価値観であるべきで、蔡氏のこうした姿勢は歓迎できる。
一方で台湾は、東京電力福島第1原発の事故後、福島、茨城、栃木、群馬、千葉県産の酒類を除く全食品の輸入を禁じており、5県産以外の日本食品についても産地証明の添付を義務づけている。
日本政府は台湾の輸入規制を「科学的根拠がない」として撤廃を求めてきた。蔡政権は速やかに規制を解除してほしい。
東日本大震災や熊本地震では、台湾から温かい支援が被災地に寄せられた。親密な日台関係への期待は国内でも根強く、この良好な感情を大切にしたい。
民主進歩党を「独立派」とみる中国は、蔡氏の政権発足から中台対話を拒否し続けている。
最近の台湾の主な世論調査は、いずれも5割近くが蔡氏の政権運営に「満足」を表明し、「不満」の回答は2割前後にとどまっている。中国は台湾の民意を見極め、対話を再開すべきである。