蔡英文政権が5月に発足して以来、中国は台湾への観光客や留学生を制限したり、国際民間航空機関(ICAO)総会などの国際会議への出席を妨害するなど、様々な圧力を台湾にかけ続けている。
蔡英文総統は9月29日に発表した「民進党党員への書簡」の中で、台湾に圧力を加えているのが中国であることを初めて明らかにした。
蔡氏は国内向けに中国の圧力を明らかにする一方、10月に入って、4日にアメリカの経済紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」、6日には日本の読売新聞と立て続けにインタビューを受け、国外に向って中国への台湾の姿勢を明らかにし、静かな反撃を始めた感がある。
それゆえに、台湾の建国記念日だという10月10日を祝う式典における蔡英文総統の発言が注目されていた。
蔡氏の発言はほぼ「ウォール・ストリート・ジャーナル」の発言内容と重なっていたようで、朝日新聞は「蔡氏はこの日も『92年コンセンサス』をめぐっては就任演説で打ち出した立場を踏襲。『我々の承諾は変わらないし、善意も変わらないが、圧力のもとでは屈服せず、対抗の道にも戻らない』と、最近の米紙インタビューで打ち出した主張を繰り返した」と報じている。
下記にその演説の動画をご紹介するが、案の定、中国政府の国務院台湾事務弁公室の報道官はこの演説を受け、あくまでも「92年コンセンサス」を認めなければ話し合いには応じないと突っぱねる談話を発表している。
10日の蔡氏の演説で注目すべきは、改めて米国、日本、欧州を挙げ「蔡総統は演説で『米国や日本、欧州など民主主義国家との関係は(新政権が発足した)5月20日以降、強くなった』と成果も強調」しつつ、「圧力を受けたとしても、すべての主要な民主国家とともに努力し、人類に対し有意義な貢献をすることを望む」と述べたことだ。日本経済新聞が伝えているので、その記事を下記にご紹介したい。
事実、国際民間航空機関(ICAO)総会に台湾の参加が危うい事態を迎えた9月23日、菅義偉・官房長官は記者会見で「台湾が何らかの形でICAO総会に参加することが現実問題として望ましい」「日台間では多数の定期直行便が運航されている。国際民間航空の安全で着実な発展を確保するべきだ」との見解を発表し、蔡英文政権をバックアップしている。
台湾は結局、ICAO総会に参加できなかったものの、菅官房長官のような政府発言は安倍政権以前の日本政府にはほとんど見られない対応で、これが蔡氏が「強くなった」という成果の一つだろう。
10月6日に行われた読売新聞のインタビューで、蔡総統は安倍首相について「広い国際的視野と強い意志を持っており、地域情勢や国際情勢に通じたリーダーだ」と高く評価し、また「安倍首相と協力して、台日関係を一層強化し、この地域の平和と安定を促進していきたい」とも述べ、日本へ強い信頼感と期待を寄せている。
ちなみに、10日の式典には、日本から「日華議員懇談会」の古屋圭司・幹事長や衛藤征士郎・副会長など国会議員25人を含む計33人、民間親善団体や関係者が240人、総計273人が式典に出席。外国招待客の約75%も占め、最も多かったという。
台湾・蔡総統「圧力に屈しない」 双十節で演説
【日本経済新聞:2016年10月10日】
台湾の蔡英文総統は10日、双十節(建国記念日に相当)の演説で「最近数カ月間で両岸(中台)関係には起伏があった」と中国側からの圧力が強まっているとの認識を示した。「我々の立場は不変であり、圧力に屈服することはない」とも述べ、台湾の主権を尊重するよう中国側に改めて呼びかけた。
台湾の双十節は、総統が自らの施政方針について住民や国際社会に対し直接メッセージを発する重要な機会だ。台北市の総統府前で行われた式典には1万1千人が集まった。台湾独立志向を持つ民主進歩党(民進党)政権の発足から4カ月あまり。中台統一を目指し、台湾独立志向を警戒する中国側との関係の冷え込みが目立つなか、中台関係に関わる蔡総統の発言に注目が集まった。
蔡総統は演説で中国側に対し、「『中華民国』が存在する事実と、台湾の人々が民主制度を信じていることを正視するよう呼びかける」と述べた。台湾は国民党が中国大陸時代から名乗る「中華民国」を国号として使い続けている。台湾独立に動かない姿勢を改めて中国側に示した格好だ。
ただし同時に、民主主義に基づく統治実体である「中華民国」の存在を認めることも求めている。将来の統一を見据える中国側に対し、台湾側の主権を守る姿勢を示してけん制したとも言える。
また、中国側が対話の条件とする「(台湾は中国と一つの国だとする)一つの中国」の原則に関しては、5月の就任時に表明した立場を繰り返した。中台双方がこの原則を口頭で認め合ったとする「92年コンセンサス」を完全には認めなかったが、歴史的な経緯を尊重すると表明し関係の発展を呼びかけた。
ただ中国側は「92年コンセンサス」を認めなければ当局間の対話をしない姿勢を崩す気配はない。演説での内容が従来通りの表現にとどまったことで、中台の対話の停滞はより長期化する見通しになった。
蔡総統は演説で「米国や日本、欧州など民主主義国家との関係は(新政権が発足した)5月20日以降、強くなった」と成果も強調。「圧力を受けたとしても、すべての主要な民主国家とともに努力し、人類に対し有意義な貢献をすることを望む」と話した。
実際、中国からの圧力で9月にカナダで行われた国際民間航空機関(ICAO)総会には出席することができなかったが、日米両政府をはじめ台湾の出席を支持する声が相次いでいた。
台湾当局によると、この日の式典には海外から約360人の来賓が出席。そのうち日本からは全体の7割超に当たる約270人と、突出して多かった。