20170107-01李登輝総統が1月4日発売の月刊「SAPIO」2月号に「日本が真に自立した国になることを望む─台湾、そしてアジアの国々は日本の憲法改正を期待している」と題して寄稿されている。

李総統は冒頭、3年前に出版の自著『李登輝より日本へ 贈る言葉』(ウェッジ)になぜ「再生する日本」という章を入れたかについて、「日本が不正常な状態を正し、再生していくことを願っていたから」と述べ、現在の日本が「安倍晋三首相の強力なリーダーシップのもと、少しずつ不正常な状態から抜け出しているように見える」と指摘。

その一方で、国際社会は英国がEUから離脱し、米国でトランプ氏が当選するなど、パラダイムの大きな転換が起こっていると述べつつ、トランプ氏の一国孤立主義について「米国にとってアジアのリーダーをまかせられるのは日本をおいて他にない」がゆえに「米国が自国のことだけを考えようとすればするほど、日本の存在が必要とされる」と喝破。日本人は「米国の側も日本の果たす役割に期待していることに気付かなくてはならない」とアドバイス。

「SAPIO」編集部がタイトルに「93歳の言葉」と添えているように、まさに日本をよく知る円熟味あふれたアドバイスだ。

続いて、寄稿の後半では、日本が役割を果たすため、いかに対処すべきかについて具体的に論じ、その第一に「対等な日米同盟に改めること」を挙げられている。

また、戦後レジームの牙城である憲法を改正して正常な国家とし、さらに「米国のみならず、フィリピンやオーストラリア、インドなどとの軍事関係を深めていくことで、台湾にも良い影響がもたらされる」と指摘。安倍総理が進めつつあるオーストラリアやインドとの同盟強化をはかる価値観外交を援護している。

寄稿の後半を「NEWSポスト」が掲載しているので下記にご紹介したい。

なお、李元総統が年末・年頭発売の月刊「SAPIO」誌に寄稿されるのは、2011年、2013年、2014年、2016年に続いて5回目。


◆李登輝氏「台湾とアジアは日本の自立を期待している」(NEWSポスト:2016年1月6日)

日本が真に自立した国になることを望む:台湾、そしてアジアの国々は日本の憲法改正を期待している

【月刊「SAPIO」2月号:2016年1月4日発行・発売】

トランプ政権誕生によって最も影響を受ける国は台湾かもしれない。台湾の李登輝元総統は日本にアジアのリーダーとしての自覚を促す。

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◆憲法改正が正しい一歩

東西冷戦に勝利後、米国が単独覇権国家として世界に君臨するというパラダイムは、2001年の同時多発テロによって崩壊した。テロは米国の金融面にも衝撃を与え、低迷を続けた米国経済は、2008年のリーマン・ショックによって決定的な打撃を受ける。経済力の低迷は軍事面にも影響を及ぼし、もはや米国単独で世界を引っ張っていく力がなくなったのだ。

ところが、この金融危機によって先進国と呼ばれる国々も力を失い、かわって中国、インド、ブラジルなど経済成長の著しい新興国の発言力が強くなってきた。そして、これらの新興国が加わって、ついにG20が国際情勢について議論を戦わせるようになっていく。

こうした国際秩序の多様化は、米国のかわりにグローバルなリーダーシップを引き受ける能力と経済力を持つ国、もしくは組織がなくなったということを表している。主導的役割を果たす国家の不在、つまりそれまでのパラダイムが崩壊したとも言えるだろう。

米国の政治学者イアン・ブレマー氏は、これを「Gゼロ」の世界と呼んだ。私に言わせれば、まさに戦国時代の到来である。

トランプ氏の米国第一主義は、それだけ米国が国際社会に関与する余裕がなくなっていることの裏返しとも言える。こうした時代に、日本はいかに対処していくべきだろうか。

まず言えるのは、米国との関係を平等な、対等な立場に改めることだ。これまでの日米関係は、日本側にとっては「米国に守ってもらおう」というような態度が戦後長く続いたように思える。

安倍晋三首相が、集団的自衛権の行使を認め、国際社会における日本の責任を果たせるように整備したことに見られるように、日本自身が安全保障に積極的に関与することで、より密接で、対等な日米同盟を築き上げていかなくてはならない。そして、米国との間で、率直な対話に基づく対等なパートナーシップを築くことを考えるべきだ。日米関係の重要さを前提としつつ、日米同盟のあり方をいまこそ根本的に考え直す必要がある。

さらに今後は、日米同盟をいかに運用していくか、日本がどのような役割を担うべきかが、改めて問われることになっていくだろう。

そして、トランプ氏が「米国第一主義」を掲げるというのであれば、日本はこの機会を利用して、これまで米国に対して物怖じしていたことを実行するべきだ。

すなわち、憲法を改正して、日本を真の自立した、正常な国家としなければならない。これこそまさに安倍首相が目標とする戦後レジームを脱却し、「新しいレジーム」を構築するための正しい一歩ではないだろうか。

集団的自衛権の行使容認や安保法制の整備などはその端緒とも言えるものだが、日本が今後、米国のみならず、フィリピンやオーストラリア、インドなどとの軍事関係を深めていくことで、台湾にも良い影響がもたらされることを期待している。

◆坂本龍馬が必要だ

日本はかつて、国家存亡の危機にあたり、西洋文明と日本文明を融合させ、明治維新という世界史上例を見ない偉業を成し遂げて国難を乗り越えた。坂本龍馬のような若者たちが立ち上がり、
リーダーとなって日本を導いたのである。

日本は今、明治維新以来、最大の改革をしなければならない状況に直面している。今こそ平成維新を起こさなくてはならないのだ。

そのために、国家の基本たる憲法をどう改正していくかが、現在の日本にとって大きな課題だ。ご存知のように、現在の日本国憲法は戦勝国米国が、日本を二度と米国に刃向かわないようにと押しつけたものだ。

その第9条では日本が軍事力を持つことを禁止している。そのため、戦後長らく、日本は米国に安全保障を委ねることになったが、もはや国際情勢は大きく変化している。こうした時代にあっては、日本も変わらなければならない。そして再生への階段を上らなくてはならないのだ。

日本が再生し、真の自立した国家として歩むことは同時に、アジア地域の平和と安定に繋がる。台湾をはじめとするアジア諸国は日本の再生を歓迎し、期待していることを日本人は知らなければならない。