月刊「正論」前編集長で、現在、大阪本社の正論室長をつとめる小島新一記者の「台湾の地位」をテーマにした記事が1月19日付産経新聞の電子版に掲載された。そのときの大見出しは「日本人洗脳 最大の先兵は教科書業界」。サブタイトルは「看過できぬ台湾=中国領の浸透」だった。
20日、この記事が産経新聞のインターネット版に「看過できない中国の『台湾=中国領』宣伝の浸透」と題して転載された。
電子版のタイトルから分かるように、台湾が中国の領土の一部だという誤解を与えている最大の原因は教科書にあると指摘した読み応えのある記事だ。下記にその全文をご紹介したい。
それにしても、集会参加者の100人のうち8割近い人々が「『台湾は中華人民共和国(以下・中国)の領土の一部』という選択肢に手を挙げた」という現状には驚かされた。まさに惨状と言っていいほどの台湾への認識不足だ。
小島記者はそこでこの記事を書くことになったわけだが、原因の背景として、中国がことあるごとに「台湾は中国の領土の一部」と言っている宣伝工作を挙げ、NHKが使う「中国本土」という表現も影響が大きいと指摘する。そして、もっとも大きな原因は「検定済み地図帳が、台湾は『中国の領土の一部』だと、読み取れる表記をしている」ことにあると指摘している。同感だ。
本会も、活動の大きな柱の一つに「台湾正名」を挙げ、「戸籍や調理師免許証などの中国表記問題の解決」に取り組むとともに「台湾併呑を正当化する中国の宣伝を打破するため、台湾を中国領とする国内の出版物や教科書などを是正する台湾正名運動を引き続き推進」することを挙げ、解決に向けて取り組んでいる。
中学校地図帳では、中国の面積に台湾の面積を含ませ(帝国書院)、「世界の大都市の人口」では中華人民共和国の都市名として「タイペイ(台北)(台湾)」と表記(東京書籍)するなど、誤記としか言いようのない表記があり、文部科学大臣宛に何度も訂正を求めている。しかし、毎回「検定基準に照らし、教科用図書検定調査審議会の専門的な審議により教科書として適切であると判断されたもの」という回答だ。
そもそも、台湾の地位に対する日本人の認識を妨げているのは、台湾併呑を正当化しようとして「一つの中国」を掲げて「台湾は中国の領土の一部」と言いふらしている中国の宣伝工にあるのはもちろんだが、実は台湾自身にもその一因があると言っていい。
小島記者はNHKが使う「中国本土」という表現も影響が大きいと指摘したが、台湾でも中国を「中国大陸」という表現を使う。さすがに「自由時報」は「中国」と表記しているものの、中央通信社や台湾国際放送などのメディアは、例えば「中国大陸の空母『遼寧』が台湾の周辺海域を航行」(1月18日付「中央通信社」)とか「台湾の対中国大陸窓口機関・海峡交流基金会の田弘茂・董事長」(1月19日付「台湾国際放送」)など「中国大陸」と表記している。
メディアばかりか、台湾政府もまた「中国大陸」という表記を使っている。例えば交通部観光局が出している統計は「中国大陸」と表記し、英語でご丁寧に「Mainland China」と付している。単に「大陸(Mainland China)」という表記も使っている。
確かに「Mainland China」には「中国大陸」という訳もあり、Chinaや中国の同義語という解釈もあるようだ。しかし、「中国本土」と訳されるのが通常であろう。
小島記者が書いているように「『本土』といわれると、台湾は中国の『離島』だと錯覚してしまう」可能性を排除できない。本土は「本国」を意味することもある。日本でも「本土決戦」という言葉があったように、北海道・本州・四国・九州の4島を「本土」、本土に付属する島を「離島」としていたのだから、中国を「本土」(Mainland)と表記すれば台湾はその離島の意味となる。
現在の蔡英文政権にして、台湾を「中国の一部」と誤解させかねない「中国大陸(Mainland China)」という表記を使っている。どうして日本やアメリカのように「中国」や「China」を使わないのか不思議なことこの上ない。
台湾に対する誤解を避け、世界の台湾認識を深めるため、台湾政府や中央通信社などのメディアは「中国大陸」や「中国本土」「Mainland China」という表記を取りやめ、「中国」や「China」という表記に改めることを提案したい。
看過できない中国の「台湾=中国領」宣伝の浸透
【産経新聞:2017年1月20日「ベテラン記者コラム」】
昨年末、ある集会に参加して、台湾の地位について誤解が広まっていることに驚かされた。中学生くらいの子供たちから70歳前後の人たちまで、男女約100人の参加者に筆者が尋ねてみたところ、8割近い人たちが「台湾は中華人民共和国(以下・中国)の領土の一部」という選択肢に手を挙げたのだ。
こんな質問をしたのも、20日(日本時間21日未明)に米国大統領に就任するトランプ氏が、「『一つの中国』原則」の見直しに言及しているからである。なぜ誤解、いや「台湾は中国の領土」という中国の一方的宣伝が浸透しているのか考えてみたい。
確かに、日本や米国の台中関係政策自体、曖昧で分かりにくい。中国との関係修復、国交回復当時の合意文書にそれが表れている。1972年2月の上海コミュニケで米国は、「台湾海峡の両側のすべての中国人が、中国はただ一つであり、台湾は中国の一部分であると主張していることを認識している」としている。
日中国交回復時の「日中共同声明」(1972年9月)は、「日本国政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する」「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し(以下略)」とする。
「認識する」「十分理解し、尊重する」という言葉で、「台湾は中国の領土の一部」とは認めないという一線は守ってはいるが、その微妙さを理解できる人がどれほどいるだろう。
この分かりにくさが、「一つの中国」問題を報じるメディアの曖昧な表現になり、誤解を生む一因になっているように思える。トランプ氏が昨年12月、「(一つの中国に)なぜわれわれが縛られなければならないのか」と発言して以降、新聞各紙は「『一つの中国』原則」に、「台湾は中国の一部とする」「(中国が)台湾を自国の一部とみなす」といった説明を付けるなどしているが、検討の余地はありそうだ。
メディアでいえば、NHKがしばしば放送で使う「中国本土」という表現は影響が大きい。例えば昨年9月14日夜の天気ニュースは、「台風14号は、台湾南部を暴風域に巻き込みながら中国本土に近づいて…」とした。「本土」といわれると、台湾は中国の「離島」だと錯覚してしまう。
「中国本土」を意図的に用いているとすれば悪質だし、意図的でないなら、中国の宣伝工作に日本の公共放送が洗脳されている証左である。
日本人を洗脳している最大の「先兵」は、教科書業界だろう。中学校や高校で使われている国の検定済み地図帳が、台湾は「中国の領土の一部」だと、読み取れる表記をしているのだ。平成28年発行の高校用「新詳高等地図」(帝国書院)や「新高等地図」(東京書籍)を見ると、世界地図では中国と台湾が同じ色で示され、中国の国境線は台湾の東側(台湾から見て中国大陸と反対側)に引かれている。
教科書業界の「地金」が見える表記はまだある。上記地図帳の詳細地図では、国名は赤字で表記されている。「日本国」「中華人民共和国」は赤字表記だ。これに対して、「台湾」の名称は黒字表記である。この違いは、日本政府が台湾を、国交がなく国家として承認していない「地域」として位置付けているからだと理解できる。
しかし、同じく「地域」であるはずの北朝鮮が、なぜか赤字で「国名表記」されているのだ。しかもご丁寧に、最近は耳目に触れることがなくなった「朝鮮民主主義人民共和国」の文字が躍っている。
「さすが教育界。いまだに媚中・媚朝の容共リベラル臭がぷんぷんする」と笑っている場合ではない。トランプ新政権の出方によっては、台湾情勢の急変もあり得る。中国の洗脳にやられていて大丈夫なのか。読者の方々も、周囲に台湾の地位について尋ねてみていただきたい。(大阪正論調査室長 小島新一)