台湾でウェブニュースを展開する「上報」は、4月27日に「外交部の日本語人材不足が深刻化 今後の対日外交に支障も」と題する記事を掲載した。

世界屈指の親日国でもあり、街には日本語の看板があふれ、若い世代でも日本語を学ぶ人々が多い台湾。しかし、記事によると台湾外交部では深刻な日本語人材不足が起きており、今後の対日外交に支障をきたすおそれもあるという。

奇しくも先週開催された「第27回・日本李登輝学校台湾研修団」においても、講師としてお招きした李明峻・台湾国際法学会秘書長が「現在の民進党政権や立法委員のなかで、日本語を話せるとか日本に留学した人材はほぼ皆無。日本語学習者も多く、民間レベルでは日台関係はかなり密接だが、特に政治の世界においては日本専門家の不足が深刻化するだろう」と指摘している。

表面上は良好に見える日台関係の陰に深刻な問題が潜んでいることを知っていただくためにも、記事を日本語に翻訳し会員各位に供する次第です。


「外交部の日本語人材不足が深刻化 今後の対日外交に支障も」

5月16日付で外交部主任秘書(大臣官房長に相当)に就任する蔡明耀・亜東関係協会秘書長

日台関係はこれまでずっと台湾外交の重要なポイントだと考えられてきたが、ここへきてその重要な対日外交に携わる外交部の人材不足という深刻な問題が起きている。蔡英文政権は「新南進政策」のため、外交官試験の受験言語に東アジアの国々の言語を選択するコースを増設したため、そのあおりを受けて日本語選択コースの定員が減らされることとなった。

さらに、定年退職者などの影響もあって対日外交に携わる人材が減少し続けてきており、日本に設置されている駐日代表処および弁事処6ヶ所のうち、半数以上の処長(領事)が60歳以上だ。そのため、外交部内でも、他の言語コースで採用された若手人材を日本語コースへと振り替え、再度訓練を受けさせなければならない事態も起きているという。

こうした日本語の人材不足に加え、外交部関係者が指摘するのは、日本を専門とする外交官がこれまでずっと重用されなかった実態だ。例えば、5月16日に外交部主任秘書(大臣官房長に相当)に昇進する蔡明耀氏(現在、亜東関係協会秘書長)は、日本語コース出身者で初めて外交部ナンバースリーの主任秘書に就任する。中国では、日中間の摩擦が頻発するため、かえって知日派の外交官が重用されており、いずれも駐日経験のある王毅・外交部長(外相)や唐家璇氏(元外交部長)はいずれも外交政策の決定に重要な役割を果たしている。

先日、考試院(人事院に相当)は蔡英文政権が「新南進政策」を進める上での人材需要に応えるため公務員試験法を改正し、外交官試験に「ベトナム語コース」と「インドネシア語コース」を新設した。ただ、「新南進政策」が外交の要となる一方で、台湾外交は日本語人材の枯渇という危機に直面しており、遠くない将来の対日外交に支障をきたすのは明らかだ。

これまで数度の日本駐在を経験してきた亜東関係協会の蔡明耀秘書長は、5月に外交部主任秘書に就任することが発表されたが、外交部内からは「やっと日本語コースから『5階』に行く人間が出た」という声が漏れ聞こえてくる。この「5階」とは、外交部部長(外相)や外交部次長(外務副大臣)の執務室があるフロアを指し、ひいては台湾の外交政策を決定する役職を意味している。ある外交部関係者は「日本語コース出身者のなかでやっと(蔡明耀秘書長が)主任秘書に、しかも初めて昇進した。台湾にとって対日関係は非常に重要だというのに、だ」と指摘する。

また、中国外交部(外務省)を例に挙げ、日本の近隣国のうち、台湾はずっと日本に対して友好的でやってきた。しかし、日本語コースの人間はまったく重用されていない。中国では、日中は敵対しているとも言えるのに、知日派の人材が重用されている。中国の外交部内では日本語畑の人間が外交政策について一定の発言力を持っており、かつて駐日大使を経験した王毅や、駐日公使を経験した唐家璇らが外交部長(外相)や国務委員にまで登りつめていることからもわかる。

こうした外交部関係者の見方に対し、蔡明耀氏本人はどう捉えているのだろうか。蔡氏は「ひとつの国や地域といった角度からだけで外交部内部の人事を見るべきではない。私は長く対日外交に携わって来たが、それだけでなく、これまでアジアやアフリカなどで勤務したことがきっと役に立っていると思う。また、対日外交に関しては言語能力が重要なのは言うまでもないが、他国との関係や問題についてもかなりの程度理解しておかなければならない。そうすることが、外交という仕事の幅を広げるものであり、専門の言語を唯一の判断基準とするべきではない」と話す。

ただ一方で、蔡氏は外交部内での日本語人材に確かに深刻な断絶が起きていることを認める。長年にわたって外交官試験の日本語コースの定員が減少しており、蔡氏が受験した年は定員が1名であった。その後も定員1名もしくは2名の時代が続き、最も多い年でも定員は6名であった。

また、日本語コースの人材は年齢的に偏りが大きく、ここ数年で続々と定年退職しており、人材不足に拍車をかけている。そのため、他の言語コースで採用された若手を日本語コースへと鞍替えさせ、新たに訓練を受けさせているような状態だという。蔡氏は、このような若手職員でも、日本の代表処や弁事処で三等書記官や二等書記官から訓練すれば、言語の問題はほとんど克服出来ると話す。

現在、日本には東京の駐日代表処のほか、横浜・大阪・福岡・那覇・札幌の5つの弁事処が置かれているが、駐日副代表の張仁久氏と、新たに札幌弁事処に就任する周学佑氏が50歳代だけで、その他の弁事処の処長はみな定年が近づく年齢になっており、今後は日本語コース出身者以外の外交官が処長に就任しなければならなくなる事態も起きるだろうとみられている。

これほど明らかに日本語人材が不足しているにもかかわらず、外交部は日本語コースの定員増加を考えていないようだ。考選部(公務員試験を管理する部署)の資料によれば、昨年と一昨年の外交官試験で日本語コースの定員は1名であった。英語コースの定員は毎年20~30名、スペイン語コースやフランス語コースも一定数を維持しており、日本語コースは外交部内では弱小コースともいえる。蔡明耀氏によれば、外交官試験の言語コースだけで外交業務のすべてを判断することは出来ず、短期的には外交部として日本語コースの定員増加を考えていないが、若手外交官の訓練をより強化することで特定の国や地域に人材の偏りが起こらないようにしたいと話している。