【主張】WHO総会 中国の台湾排除を許すな

自国の利益や主張を押し通すために、国際機関を牛耳ろうとする。その姿勢は目に余る。

ジュネーブでの世界保健機関(WHO)総会から、台湾の締め出しを図る中国のことである。

台湾は馬英九政権下の2009年から、オブザーバーとして総会に参加している。ところが、今年は予定期限内に招待状が届かなかった。

中国の当局者は「出席できない責任は民進党当局にある」と語った。参加拒否は、蔡英文総統が率いる政権に対する対抗措置だと、公然と認めたかっこうだ。

「一つの中国」をめぐる台湾との対立が背景にある。だが、ことは感染症対策など人類全体の医療衛生にかかわる。台湾の排除は、2300万人が暮らす東アジアの一角を、世界の保健サービスから切り離すに等しい行為だ。

事柄の優先順序を常識的に判断できないのは、国際協力の輪を乱す存在である証しだ。

台湾は中国を発生源とする2003年の新型肺炎(SARS)の流行時、WHOから情報提供を拒まれた経験がある。情報を得られるようにしようと総会参加を重ねるのは、当たり前のことだ。

菅義偉官房長官は「WHOへの対応に地理的空白を生じさせないためにも、台湾が何らかの形で参加することが望ましい」と語った。これも当然だろう。

先進国では米国、カナダも台湾のオブザーバー参加を支持している。香港出身のマーガレット・チャンWHO事務局長は、公正かつ妥当な判断を示すべきだ。

WHOという人道に直結した分野ですら、この高圧ぶりだともいえよう。

蔡政権の発足後、中国は国連食糧農業機関(FAO)の水産委員会(昨年7月)、国際民間航空機関(ICAO)総会(同9月)などでも、台湾の参加を阻んできた。注視すべきは、いずれも国連の専門機関である点である。

中国は1971年に国連代表権を獲得した。国連は、多くの課題で世界の中の調整を担うことを求められている。その責務を全うすることなく、自国の都合で組織運営を左右したがる。それが今の中国の姿ではないか。

WHOの総会期間中、台湾は代表団を現地に派遣し、存在をアピールする。日本政府も、大いに支援したらよい。【産経新聞:2017年5月12日】