4月7日、「台湾」名義での国連加盟を目標とする政治団体「喜楽島連盟」が予定どおり発足した。高雄市内の国際会議センターで開かれた記者会見には3,000人が参加する中、発起人の郭倍宏氏(民視・董事長で「台湾独立建国連盟」米国本部元主席)などとともに李登輝総統が登壇し「台湾人の未来は台湾人が決めるという決心を世界に示し、中国に統一の考えを改めさせよう」などと挨拶したという。下記に日本経済新聞の記事をご紹介したい。
また、4月7日は鄭南榕が言論の自由を訴えて焼身自殺した日で、台湾では「言論の自由の日」。中央通信社は「鄭氏の娘、竹梅さんも会見に駆け付け、鄭氏の言葉を引用しながら、開かれた議論
や公民投票の重要さを訴えた」と報じている。
なお、前日の「自由時報」紙には、喜楽島聯盟の趣旨に賛同する世界各国の台湾出身者など1,350人の名前が一挙掲載された。日本からは全日本台湾連合会の趙中正会長や本会の渡辺利夫会長など200人を超える人々が賛同している。
台湾独立派が結束 対中現状維持の蔡政権に突き上げ
【日本経済新聞:2018年4月7日】
台湾で7日、台湾独立の住民投票の実施を目指す政党・政治団体が連盟を発足させた。統一を目指す中国の圧力が強まるなか、危機感が独立派の背中を押している。台湾は中台の現状維持を望む声が主流。穏健派の蔡英文総統も独立論に距離を置くが、与党の支持基盤に一定の影響力を持つ独立派の動きは政権に微妙な影響を及ぼし、中台の対立が一段と深まる可能性もある。
7日、台湾南部の高雄市内で開かれた「喜楽島連盟」の創立大会。95歳の高齢を押して台北から駆けつけた元総統・李登輝氏は「台湾人の未来は台湾人が決めるという決心を世界に示し、中国に統一の考えを改めさせよう」とあいさつ。会場を埋めた独立支持者約3千人から拍手が巻き起こった。
同連盟は民放「民間全民テレビ」(民視)の郭倍宏董事長が発起人となり、台湾団結連盟や基進党(基進側翼)など台湾独立を掲げる政党や政治団体が参加。この日は「ヒマワリ学生運動」を源流とする新政党「時代力量」の黄国昌主席のほか、与党・民主進歩党(民進党)の重鎮である游錫堃・元行政院長も出席した。2019年4月に住民投票を行い、「国名」を台湾に変更することや台湾名義での国連加盟の申請を目指す。
「国名」などの変更は憲法改正が必要。立法院(国会)で出席議員の4分の3以上の賛成による発議が必要なことなどの厳しいハードルがあり、法的拘束力のある住民投票を実現することは難しいとの見方が強い。それでも独立派を行動に駆り立てるのは、現状への焦燥感だ。
中国は外交関係の切り崩しなどで、台湾の国際社会からの孤立を進める。対外協調を重視し中台の現状維持を掲げる蔡政権は有効な手立てを見つけられていない。「蔡政権が発足してからの2年間で失望させられた」。出席者らからは次々と蔡総統への不満が飛び出した。
中国には台湾の平和統一の可能性が完全に失われた場合、武力を含む非平和的手段の行使を可能にする「反国家分裂法」がある。台湾独立の動きは中国との緊張を極度に高めかねない。一方で安全保障のよりどころである米国は最近、台湾を中国との交渉のカードとして活用する姿勢が目立つものの、台湾が主導して東アジア情勢を緊張させる展開は望まないとみられる。蔡政権の現状維持には選択肢の少ない台湾の苦境が透ける。
台湾誌「天下雑誌」が1月に掲載した民意調査では、中台の現状維持への支持は5割近くを占める。「中国大陸と平和を維持しつつ独立」「何があろうとなるべく早く独立」という独立支持の2項目は計32%と、1年前から5.2ポイントも低下した。中国が軍事・経済で台頭するなか、独立はますます困難な選択肢になってきている。
一方、「一定の条件下で統一」という項目は13.8%と5.6ポイント上昇。まだ比率は低いが、圧力下で先の見えない状況が続けば統一容認の意見も増えかねない。
李登輝氏は3月の台北市での講演で、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席が掲げる「中国の夢」に言及した。大国の誇りを取り戻す夢において、台湾統一は欠かせない要素とされる。「中国の夢を前にして皆さんに問いたい。21世紀に台湾はどこにいくのか、我々自身の『台湾の夢』とは何なのか」。蔡氏の現状維持に夢を見いだせない独立派は蔡氏を突き上げる姿勢を鮮明にする。
蔡氏が中国との緊張を招く独立派の動きに呼応する可能性は低い。ただし独立派の一部は与党民進党の伝統的支持層と重なる。今年11月には20年の総統選の行方を占う統一地方選が予定され、独立志向の強い勢力を含めて党内を結束させる重要性は高まっている。このままの穏健姿勢を保てるか、蔡政権の対中姿勢の変化は注目点になる。