今年2月に開かれたある講演会で、来賓として登壇した台北駐日経済文化代表処の謝長廷代表が日台の姉妹都市などの都市間提携は99件にものぼると披露した。参加者も一瞬「おおッ」とどよめくような雰囲気だった。

ただ、本会の調査によれば、昨年12月6日の山形市と台南市による「友好交流促進協定」の締結で73件。この26件の開きはどういう理由なのか気になっていたが、昨日の毎日新聞の記事で判明した。

毎日新聞の記事は「交流活気 国交なくとも、自治体の友好協定急増」という見出しの下に、東日本大震災後から日台の自治体間交流が活気づいていることを報ずる内容で、その見方に異論はない。

東日本大震災への台湾からの義捐金総額については、ニッポン・ドットコム編集部の高橋郁文(たかはし・いくとも)氏が台湾外交部発表資料を基に詳細な分析結果を発表し、その総額は253億円(1台湾元=約3.7円)だったことが明らかになっている。この破格の義捐金が日本人の心に深く台湾を刻み込んだ。それが、自治体交流や修学旅行の急増の大きな要因となっていることは、毎日新聞の伝える通りだ。

ただ、もう一つの要因として考えられるのが、2012年12月からはじまった第2次安倍政権の長期かつ安定した政権運営ではないだろうか。台湾は「基本的な価値観を共有する重要なパートナーであり、大切な友人」と明言する安倍総理が率いる第2次安倍政権が発足してから昨年12月までの5年間で、日台の都市間提携は50件(本会調査)にも及んでいる。

事実、第2次安倍政権前、2009年9月からはじまった民主党政権時代の3年間において、日台の都市間提携は6件(本会調査)にとどまっている。民主党政権時代は中国におもねるような姿勢が散見され、中国を刺激するなとばかりに台湾を冷遇したことがその要因だったと思われる。

さて、本題に戻って、謝長廷代表が表明した日台の都市間提携数の99件と本会調査による73件の差であるが、その原因は都市間提携の内容、つまり基準にあるようだ。

毎日新聞は「南部・高雄市も札幌市と観光交流の覚書を結んだ」と伝えている。調べてみると、これは昨年12月18日、札幌市経済観光局と高雄市観光局による「観光交流に関する覚書」のことだった。

本会の調査は自治体同士の「覚書」締結もカウントしているが、観光局同士や、自治体同士であっても単一交流を目的にした提携、また姉妹都市等を結ぶ前段階の確認書締結の事例はカウントしていない。

例えば、横浜市と台北市は2016年1月28日に「防災分野での協力覚書」を締結していたり、静岡県危機管理部と高雄市消防局が2017年10月19日に「防災に関する相互応援協定」を締結しているが、本会調査では日台の都市間提携としてカウントしていない。

その象徴的な事例が、2011年9月20日の金沢市観光協会と台南市の台南市旅行商業同業公会による「友好交流協定」の締結だろう。

金沢市は烏山頭ダムを造った八田與一技師の生まれ育った故郷であり、金沢市の山野之義市長は市議時代から何度も八田與一技師の墓前祭に出席している、いわば親台湾派ともいうべき市長だ。しかし、金沢市は中国の蘇州市とは姉妹都市協定、大連市とも友好交流都市協定を結んでいることから、市レベルではなく観光協会同士の協定としたことが明らかになっている。

本会としては、これをしも日台の都市間提携としてカウントしていいのだろうかという疑問符がつく。だから、このようなケースをカウントしていない。ご理解のほどをお願いしたい。


交流活気 国交なくとも、自治体の友好協定急増 三村知事、来月訪問 経済・観光に期待/青森

【毎日新聞:2018年4月25日】

台北駐日経済文化代表処によると、日台の自治体同士の友好交流協定や姉妹都市締結などは11年までで20件だった。しかし震災を経た12年から急増し、今年1月には99件に達した。直近では17年12月に台湾南部・台南市が青森県や弘前市と友好交流の覚書を交わし、南部・高雄市も札幌市と観光交流の覚書を結んだ。

代表処幹部は「東日本大震災で台湾から200億円超の支援が寄せられたことで、『台湾は親日だ』とのイメージが日本の自治体の間で強まったのが弾みになった」と分析する。

震災が起きた11年に日台が結んだ航空路線の規制を原則撤廃する「オープンスカイ協定」も後押しした。国土交通省によると、11年から18年3月までに直行便の日本側の就航都市は10市から21市へ、旅客便数も週225便から同619便へとそれぞれ拡大した。富山、鹿児島など地方路線が増えたため、地方自治体は台湾からの観光誘致を競い、自治体間交流が加速した。 

青森県内では、県や弘前市、青森市など5自治体が台湾側と協定や覚書を結んでいる。17年に県内を訪れた外国人観光客のうち、国・地域別で延べ宿泊者数(従業員数10人以上の施設が対象)が最も多いのは台湾で、約7万8400人。こうした民間交流をさらに後押ししようと、三村申吾知事は5月に台湾を訪問する予定だ。 

また、16年に台湾の2自治体と協定を締結し、今年1月には吉村美栄子知事が訪台した山形県の担当者も「県内に宿泊する外国人客の半数近くが台湾から。親日的でこちらもPRしやすく、最大のお得意様になっている」と話す。 

日本からの特産品輸出も好調だ。農林水産省の統計(17年分)によると、日本から海外への農林水産品・食品輸出で台湾は中国(香港を含む)、米国に次いで3位の838億円。11年に比べ4割増えた。 

一方で、中国とのあつれきを避けるため、協定の多くは、経済や観光、文化などに対象を絞っている。03年には岡山市が台湾・新竹市と友好交流協定を結んだ際、友好都市の中国・洛陽市から交流凍結を通告されたという事例もあったからだ。

昨年、台湾の2自治体と経済や観光に関する覚書を結んだ札幌市の担当者は「札幌市は中国の自治体とも交流がある。だから、中国と台湾のどちらの都市とも協定を結ぶ他の自治体に事情を聴いて、問題はないと確認してから台湾側との話を進めた」。政治的な要素は薄めながら、さらなる交流の深化を目指すことになりそうだ。

国交のない日本と台湾で、近年、地方自治体同士の交流が活気づいている。経済や観光に関する友好交流協定などが急増し、日本の自治体トップが台湾を訪れるケースも目立っている。流れが変わったのは、東日本大震災で台湾から多くの支援が寄せられた2011年。親日的で地理的に近い台湾との交流は、観光客呼び込みや特産品輸出といった地域活性化につながるかもしれない−−。日本側には、そんな期待もあるようだ。