1月2日年頭の習近平・中国国家主席の「一国二制度」に基づく台湾統一に関する演説には、台湾の蔡英文総統が即座に反論して「中国・習近平氏の談話に対するわが国の立場について」を発表し、本会メールマガジン『日台共栄』でもその反論の全文を紹介した。
また、産経新聞の主張(社説)「習氏の台湾演説 一国二制度を誰が信じる」、ピーター・アプリ氏(「ロイター」コラムニスト)、有本香氏(ジャーナリスト)、小笠原欣幸氏(東京外語大学准教授)、福島香織氏(ジャーナリスト)などの見解を紹介してきた。
今度は読売新聞が社説で「空約束に過ぎぬ『一国二制度』」と題し、習近平氏演説は「額面通りに受け取ることはできない」「地域の緊張を高める言動は看過できない」と論難している。
もちろん、習近平演説は論難されても致し方ない独りよがりの一方的な主張なのだが、読売新聞の「東アジアの安定に重要な台湾への関与を、米国が目に見える形で示し、中国へのけん制を続けることが欠かせない」と、米国ばかりに頼ろうとし、日本政府への具体的提案に欠けた見解には物足りなさを覚える。
1月27日、全日本台湾連合会(趙中正会長)の新年会における講演で、台北駐日経済文化代表処の謝長廷代表は統一選挙で民進党大敗の原因について述べるとともに、「日台交流基本法」を推進したいと明言した。
やはり日本は日米同盟国の一方として、米国の台湾防衛に寄与する具体策を明示しなければ同盟の意義は薄れる。中国の反発は必至であろうが、米国並みとはいかないまでも、日本は目に見える形、すなわち「日台交流基本法」を制定することで台湾との関係強化をはかりたいものだ。それが中国への大きな牽制ともなり、これで日米の足並はそろう。
中国の台湾政策 空約束に過ぎぬ「一国二制度」
【読売新聞「社説」:2019年1月29日】
中国共産党政権は一党支配に不都合な勢力や意見を抑圧してきた。「一国二制度」で台湾の自由や民主主義を保障すると約束しても、信用は到底得られまい。
中国の習近平国家主席が演説し、包括的な台湾政策を初めて示した。1979年の米中国交正常化と同時に、中国は「台湾同胞に告げる書」を発表し、台湾に平和統一を呼びかけている。演説はその40周年の節目に合わせた。
習氏は平和統一の目標と、香港やマカオで適用されている「一国二制度」を台湾に導入する方針を表明した。「台湾同胞の社会制度や生活方式は十分に尊重される」と述べ、融和姿勢を強調した。
額面通りに受け取ることはできない。「平和統一・一国二制度」は歴代政権の基本路線だが、強権統治が強まる中で、実態との乖離かいりが大きくなっているからだ。
97年に英国から中国に返還された香港では、大陸の社会主義とは異なる制度の存続と「高度な自治」が保障された。だが、民主化を求める勢力は弾圧され、言論の自由が脅かされている。
香港の実情を目の当たりにして、台湾が「一国二制度」への拒否感を抱くのは当然だ。独立志向の強い民進党の蔡英文政権のみならず、親中的な国民党も受け入れない考えを示している。
台湾では来年、総統選が行われる。中国が台湾の世論を分断する工作を加速させても、中国の要求に無条件で従うような政権の誕生はあり得ない。習政権は、そのことを認識すべきだ。
問題は、習氏が米国を念頭に、台湾問題への外部勢力の介入には「武力使用を放棄しない」と主張したことである。
中国の軍事力はいまや台湾を圧倒している。中国軍は台湾周辺で軍事活動を繰り返し、武力行使が現実味を帯びる。地域の緊張を高める言動は看過できない。
米国防情報局(DIA)が今月公表した報告書でも、台湾の独立阻止や中台統一が、中国の軍近代化の原動力だと指摘された。一部の兵器は世界最先端の水準に達しているという。
トランプ米政権は、台湾との安全保障や経済での協力強化を目指す新法を成立させた。24日には、米海軍の艦艇2隻が台湾海峡を通過した。この半年で4回目と、航行の頻度が高まっている。
東アジアの安定に重要な台湾への関与を、米国が目に見える形で示し、中国へのけん制を続けることが欠かせない。