4月の台湾セミナーでは、本会理事で台湾語研究者の多田恵(ただ・けい)氏に「台湾の新型コロナ封じ込め成功に学ぶ ─ オードリー・タンの『ソーシャル・イノベーション』」と題してお話していただきましたが、オードリー自身、初の単行本『デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)を日本で出版し、これまで鄭仲嵐著『Au オードリー・タン 天才IT相7つの顔』や近藤弥生子著『オードリー・タンの思考』など数冊の関係本が出版されています。
海外でも大統領や王様ならいざ知らず、一大臣がこれほど日本で注目されるのは異例であり、本当に稀なことです。
史上最年少の35歳で台湾の閣僚に就いた異才もさることながら、8歳からプログラミングの独習を始めたことやトランスジェンダーだったこと、中学校を中退し19歳にしてシリコンバレーでソフトウェア会社を起業したことなど、その来歴もさることながら、やはりオードリーの考え方や生きる姿勢が日本人の心にしっくりくるのかもしれません。その点で、李登輝元総統とよく似ています。
実際、オードリーの考え方を探ってゆきますと、李登輝元総統が到達した境地「我是不是我的我(私は私でない私)」とあまり変わらない考え方が実に多く見つかります。
4月19日、オードリーの初の単行本『デジタルとAIの未来を語る』で20時間を超えるインタビューに携わり、翻訳チームのリーダーをつとめた早川友久氏(李登輝元総統秘書)が『オードリー・タン─日本人のためのデジタル未来学』(ビジネス社)を出版しました。
オードリー著『デジタルとAIの未来を語る』でインタビューした裏話が載っているのかと思いきや、確かに興味深い裏話も少し紹介していますが、日本は今回のコロナ禍でオードリーや台湾から学ぶべきことがたくさんあると、オードリーの考え方を核につづる、日本を勇気づける、日本の再興を願って書いた本です。
早川氏自身が本書の紹介をフェイスブックに述べていますので、下記にご紹介します。
なお、本会では昨年、早川氏の『李登輝─いま本当に伝えたいこと』(ビジネス社)や『総統とわたし』(ウェッジ)を本会の推薦図書として会員の方々などにご案内しましたが、近々この『オードリー・タン─日本人のためのデジタル未来学』も推薦図書としてご紹介します。楽しみにお待ちください。
日本を台湾の「ディズニーランド」にしてはいけない
【Facebook「台湾民主化の父 李登輝元総統の日本人秘書 早川友久」:2021年4月13日】
おかげさまで4月19日にビジネス社から『オードリー・タン 日本人のためのデジタル未来学』を出版することとなりました。
「親日」といわれる台湾でも、日本に対する評価に変化が起きています。新型コロナウイルスが世界に蔓延したこの一年ほど、次々と日本で起こる問題を台湾から見るたびに「なぜ台湾ができて、日本はできないのだろう」というもどかしさに苛まされた日々はありませんでした。
もはや日本がアジアの盟主として君臨し、誰もが日本の背中を追いかけた時代は終わったのです。日本は、不足しているものを今こそ謙虚に学ばなければならない時代を迎えています。
そして、その最良の手本となるのが台湾です。デジタル政府、政府の対応のスピード、社会の多様性や寛容性など、今回のコロナ禍を通じて、日本が台湾に学ぶべきものはたくさんあります。
もちろん、台湾よりも日本のほうが優れている分野もまだまだたくさんあります。ですから、今後は日台がお
いの長所を学び合うという姿勢こそが重要となるのです。
拙著は、台湾の防疫成功を象徴する人物、オードリー・タンの言葉をヒントに、日本が学ぶべき台湾社会の姿を書いた一冊です。
外交においても、経済においても、そして何よりも重要な安全保障においても、日本が台湾の期待に応えられる国にしていくのは私たち日本人の責任です。
私は、この日本を、台湾から近くて、安く行けて、美味しいものがたくさんあり、品質の高い物が安く買えて、北海道から沖縄まで色々な場所があって楽しく遊べるだけの、ただの「ディズニーランド」のような場所にしてはいけない、という危機感を強く持っています。裏返せば、そうなりつつある状況がすぐ目の前まで来ているのをひしひしと感じずにはいられません。
美味しいものがたくさんあるから好き、買い物が便利だから好き、というだけでの「日本が好き」ではなく、本当の意味で「信頼できる」「助け合える」日台関係を作らなければならない。そういう思いを込めて書きました。
どうか多くの方々に手にとっていただければ嬉しいです。