8月26日、第53回「太平洋諸島フォーラム(Pacific Islands Forum PIF)」はトンガの首都ヌクアロファで開幕し、30日に首脳による共同声明を発表して閉会した。
ところが、共同声明の条項66には「各国のリーダーは、1992年の同首脳会議のコミュニケを重ねて表明する。すなわち、台湾が『台湾/中華民国』の名義で太平洋諸島フォーラムに参加するという立場が揺らぐことはない」と記されていたにもかかわらず、「共同声明は30日夜に削除され、31日午前に新たな共同声明が出されていた」(日本経済新聞)という。どいうことかというと「採択した首脳声明から台湾との交流を再確認した部分を削除し」(時事通信)て、新たな共同声明を公表したというのだ。
なぜ、16か国・2地域で構成する加盟国・地域が全会一致で採択した首脳による共同声明にもかかわらず、このような異例の事後変更になったのか。
原因は、域外国(オブザーバー)として参加していた中国だった。
時事通信は「オブザーバーとして会議に出席した中国の銭波・太平洋島しょ国担当特使は閉幕後、『台湾は中国の一部』とする立場から、声明の台湾言及部分について『全くの誤りだ』と猛烈に抗議し、訂正を要求。PIFは中国から資金援助を受け入れていることもあり、応ぜざるを得なかったもようだ」と伝えている。
これを「横紙破り」という。いわゆる「ゴリ押し」のことだ。中国は道理に合わないことを無理やり押し通したのだった。加盟国ではなく、日本や米国と同じ立場のオブザーバー国の中国が資金援助を嵩にかけてゴリ押しした。これが「『一つの中国』原則」を強硬に主張する、中国のいまの姿だ。
太平洋諸島フォーラムは1971年8月に第1回南太平洋フォーラムの首脳会議をニュージーランドで開き、1989年(平成元年)以降は毎年、コロナ期を除いて「太平洋諸島フォーラム」を開催してきた。
太平洋諸島フォーラムは1992年に台湾を開発パートナーとして認め、「台湾/中華民国」の名義で「開発パートナー」と認め、会合へのオブザーバー参加を許可している。今回も外交部の田中光・政務次長(副大臣に相当)が代表団を率いて参加していた。共同声明はそれを追認したにすぎない。首脳による共同声明を事後変更したのは初めてのことと思われる。
太平洋諸島フォーラムの現在の加盟国・地域は16か国・2地域(オーストラリア、キリバス、クック諸島、サモア、ソロモン諸島、ツバル、トンガ、ナウル、ニウエ、ニュージーランド、バヌアツ、パプアニューギニア、パラオ、フィジー、マーシャル諸島、ミクロネシア連邦、並びにニューカレドニアと仏領ポリネシア)。
このうち、ツバル、パラオ、マーシャル諸島の3ヵ国がいまも台湾と外交関係を結び、キリバス、ソロモン諸島、ナウルの3ヵ国は蔡英文政権になった2016年以降、中国の圧力により断交している。
太平洋諸島フォーラムの域外国・機関は20ヵ国・1機関(日本、米国、英国、フランス、カナダ、中国、欧州連合(EU)、韓国、マレーシア、フィリピン、インドネシア、インド、タイ、イタリア、キューバ、スペイン、トルコ、ドイツ、チリ、ノルウェー、シンガポール)が参加している。
日本は「第1回対話から継続してハイレベルの代表団を派遣し、日本と太平洋島嶼国・地域との関係強化に努めている」(外務省)そうで、今回も総理特使として高村正大・外務大臣政務官が総理特使として出席していた。
太平洋諸島フォーラムに出席していた台湾外交部の田中光・政務次長は「『島しょ国を分断する試みだ』と警告した」(日本経済新聞)というが、日本の外務省はこの中国の横紙破りに対してまだ何もコメントしていない。
島しょ国声明から「台湾」削除 中国が圧力、異例の採択後変更
【時事通信:2024年8月31日】
【シドニー時事】太平洋の地域機構「太平洋諸島フォーラム(PIF)」は31日、前日に採択した首脳声明から台湾との交流を再確認した部分を削除し、更新版を公表した。首脳会議にオブザーバー参加した中国が圧力をかけた結果、異例の事後変更となった。パラオなど域内3カ国は台湾と外交関係を維持しており、中国は台湾の影響力排除に向けた動きを一層強めそうだ。
PIFはトンガで26~30日に首脳会議を開催。最終日に採択して対外発表した声明には、台湾を開発パートナーと位置付けて交流していくことを決めた1992年の合意を「再確認した」と明記していた。台湾と外交関係を保つパラオ、ツバル、マーシャル諸島の意向を踏まえた。
ところが、オブザーバーとして会議に出席した中国の銭波・太平洋島しょ国担当特使は閉幕後、「台湾は中国の一部」とする立場から、声明の台湾言及部分について「全くの誤りだ」と猛烈に抗議し、訂正を要求。PIFは中国から資金援助を受け入れていることもあり、応ぜざるを得なかったもようだ。